東京ひとり暮らしのリアルな室内事情を紹介した『TOKYO STYLE』や、とりとめのない郊外風景を集めた『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』。かつて各地にあったオトナの行楽地を記録する『秘宝館』、戦後日本でガラパゴス的進化を遂げてきた施設内部をつぶさに見せる『ラブホテル』……。

「いつもそこにある」が注目されていないものを取材し、写真と文章で本にまとめ白日の下にさらけ出してきたのが、編集者・ジャーナリストの都築響一さんだ。

 活動の集大成ということだろうか、東京・隅田川東岸の向島に2022年、「大道芸術館」なるギャラリー・カフェバーを開設した。自身のもとに集まった、放っておけば消えてしまうもの、名もなき人たちの作品などを展示する場である。

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 そこへ、

「またおもしろいこと始めてるじゃないの。撮らせてよ」

 と、乗り込まんとする写真家がひとり。国内外のロック・レジェンドを撮り続けてきた、三浦憲治さんだ。

 都築響一さんと三浦憲治さんはこれまでに、取材行や杯を重ねること数知れず。公私ともに親交深い旧知の仲である。三浦さんによる大道芸術館への撮影訪問を、追いかけてみよう。

女将と共に暖簾をくぐると、そこにはちょっとエッチなオトナの芸術館が……! ©三浦憲治

料亭だった建物がいまや“ちょっとエッチなオトナの芸術館”に

 大道芸術館がある向島は、江戸時代に花街として栄えた土地。いまも料亭が10軒ほどあり、界隈を芸妓が行き交う。

 その一角に佇む風情ある3階建て、元は料亭だった建築が丸ごと、大道芸術館となっている。

「これは想像以上に立派な構え……」

 三浦さんはそうつぶやきながら、建物外観にカメラを向ける。

 大きい暖簾を下げた引き戸を開けたところで、都築さんが三浦さんを出迎えてくれた。都築さん直々に、館内を案内してくれるという。

 広々とした玄関の中央には、カプセルに包まれたレトロで妖しげな女性のオブジェが鎮座している。いまはなき「元祖国際秘宝館 鳥羽SF未来館」の展示品を、都築さんが引き取ったもの。

 エントランスの脇に奥へ通ずる廊下があり、その先はレーザーカラオケ完備の VIP ルーム。LDのオリジナル映像に合わせて、懐メロを心置きなく熱唱できるようになっている。

 昭和の香り漂うVIPルームを出て、上のフロアを目指そうと階段に足をかけると、壁面にびっしりと多種多様な作品が並んでいて圧倒される。