「出すのを我慢している人が多いので、便所に入った時に余裕がありません。詰まった上にさらにしてしまうと、どんどん詰まるのです」と上浜さんが大便器の汚れが進む構造を解説する。
そうして詰まったトイレでも、掃除をすれば流すことができた。このため、上浜さんは気づいた時に妻と2人で掃除をした。他のスタッフもしていたようだ。
「詰まっても掃除をすれば流せるのだから、自分が使った時に掃除をしてくれればいいのにと思いました。せめて、スタッフに教えてくれれば対処できます。家ではどうするのか。詰まったり、汚れたりしたら自分で掃除をするでしょう。避難所は住めなくなった家のかわりに生活する場です。自分の家と同じように考えてほしかったですね」と上浜さんは話す。
遠方の自治体から派遣されたトレーラー型トイレが好評
循環型の水洗仮設トイレが設置されると、たまった汚物の汲み取り後に水を補給しなければならなかった。水はプールにしかない。バケツに汲んで何度も往復するわけにいかず、上浜さんは自宅から漁に使う300リットル入りのタンクを二つ持ってきた。これにバケツリレーでプールからためておき、汲み取り後に補給するようにしたのである。体育館のトイレにも、このタンクから水を運んだ。
トイレに関しては、遠方の自治体から派遣されたトレーラー型トイレが好評だった。水洗トイレが4室設けられ、牽引できるようになっている。
上浜さんも使ってみたが、「すっごく気持ちよかったですよ」と、これだけは思わず笑みがこぼれる。
「水害なども含めて、毎年どこかで大きな災害が起きています。小さな自治体では財源や維持管理が難しいでしょうが、国や都道府県が一定数を導入し、災害が起きたら県のエリアにとらわれずに派遣するようにしたら、被災地でいつも困りごとになるトイレの問題が少しでも改善されるのでは」と提案する人もいた。
「避難所は自宅だ」と考えてもらうことが重要
話を体育館に戻そう。ああしろこうしろと「言うだけ」の人もいた。
「『名簿を作れ』と何度も言う人がいました。ものすごい人数が避難しているのに、10人ほどしかいないスタッフでは手が回りません。私はその人に『暇があるなら、名簿を作る係になって下さい』とお願いしましたが、無理でした。うるさく言う人に限って、口先だけで動いてくれません。スタッフは同じ被災者のボランティアなのに」と上浜さんは悲しげだ。
やはり「避難所は自宅だ」と考えてもらうことが重要なのだろう。
名簿は作るようにした。だが、「私がスタッフをしていた間には7~8割しか把握できませんでした。身を寄せた人が何百人もいるので、出入りが激しい。昼間は片づけに帰り、夜だけ来る人もいます。仕事などで輪島に残る必要があるから身を寄せている人もいました。グラウンドでの車中泊も多い。ずっと館内にいる人ばかりではなく、つかみ切れないのです」
こうして混乱は続いた。