文春オンライン

「避難所のトイレはなぜ詰まったまま放置されるのか?」運営スタッフになった被災者を困惑させた“最大600人の避難生活”

能登半島地震、漁師達の嘆き#1

2024/03/14

genre : ライフ, 社会

note

 長くて激しい揺れがやっと収まりかけた。外を見ると近所の家が2軒潰れていた。「津波が来る! 猶予は10分あるかなしだ」。そう直感した石川県輪島市の漁師、上浜政紀さん(60)は玄関を飛び出した。

 輪島市で最大震度7を記録した能登半島地震。

 石川県庁が2024年3月12日時点でまとめた被災状況によると、同市の住家被害は1万4770棟と、1月1日時点で住民登録をしていた1万1357世帯を上回る。住んでいた世帯より、壊れた住宅などの方が多いという前代未聞の酷さである。

ADVERTISEMENT

 そうした中で住民はどう動き、避難所ではどんな問題が起きたのか。上浜さんの行動から追いかけたい。上浜さんは375年前、加賀藩主に土地を拝領して定着し、輪島市にありながらも独自の文化を受け継いできた漁師集落「海士(あま)町」の前自治会長である。

上浜政紀さん。2次避難先の加賀市で

午後4時6分、ガタガタと揺れが始まった

 あの日、2024年1月1日。上浜さんは自宅でくつろいでいた。前年に父が亡くなり、海士町の伝統だと3年間は喪に服すことになっていた。例年なら歩いて10分ほどの妻の実家に年始の挨拶に行くのだが、それも控えていた。

 海士町では還暦を迎えると戒名をもらう。上浜さんはこれに合わせてお経を習った。それ以降、読経が日課になっていて、「そろそろやるか」と思っていた時だった。

 午後4時6分、ガタガタと揺れが始まった。

 上浜さんはテレビが倒れないように押さえる。震源は隣の珠洲(すず)市で、最大震度は5強だったというニュース速報が流れた。

「また珠洲か」。そう思った。

 奥能登では2020年12月から群発地震が発生し、特に珠洲市では2022年6月19日に震度6弱、2023年5月5日には震度6強を観測していた。

揺れが収まると、外から「変な臭い」が

 上浜さんは倒れた物がないか、神棚と仏壇をチェックしてから、85歳の母親に「大丈夫か」と声を掛けた。

 母親、妻、長男の4人暮らし。その時、自宅には長男を除く3人がいた。長男は市の第三セクターが経営する宿泊施設で働いていて、正月から出勤していた。

 4分後の午後4時10分、また揺れが始まった。

 なかなか収まらない。それどころか、だんだん酷くなって物が散乱していく。それでも必死でテレビを押さえていると、台所で夕食の準備をしていた妻の悲鳴が聞こえた。

 揺れが収まると、外から「変な臭い」がした。窓を見ると住宅が2軒潰れていた。

「津波が来る」。上浜さんは直感した。

 自宅は輪島の中心街を貫く河原田川のすぐそばにある。

関連記事