石川県内で最多の水揚高を誇る輪島港。
ところが、能登半島地震による地盤隆起で海底が上昇し、約200隻の漁船が出入りできなくなった。干上がってはいないので、ぱっと見ただけでは深刻さが分からない。しかし、漁師は全員が失業状態だ。このまま出漁できない期間が長引けば、廃業が相次ぎかねない。漁業は輪島の基幹産業の一つだ。今後の動向によっては、輪島の復興はもとより、石川県の漁業に大打撃となる。
一帯が4mも隆起 港として使えなくなった黒島漁港
波打ち際は、干上がった漁港の外にあった。
輪島市の黒島漁港。国土地理院の衛星観測によると、能登半島地震が引き起こした地盤の隆起は、この辺りの輪島市西部が最も激しく、最大4mも上がったという。
このため黒島漁港は完全に干上がってしまった。かつての港内を歩くと、ほんの少し前まで海底だった場所からコンクリート構造物の岸壁が見上げられる。外海だった場所は広々とした砂浜などになっていて、ザーッ、ザーッと薄い波が押したり引いたりしていた。
遺跡のように残された構造物がなければ、そこが港だったと誰が信じるだろう。
こうした漁港の隆起は、黒島のように干上がった港だけが深刻なわけではない。
同じ輪島市でも直線距離で20kmほど離れた輪島港。能登半島の北側にあり、ノドグロ、フグ、カニ、メバルなど多くの魚種が水揚げされてきた。
2022年度の水揚げ金額は約25億円と県内で最も多く、石川県の漁業は輪島港を抜きにして語れない。
ところが海底が1~2mも隆起してしまい、港としては使えなくなった。
最初の地震で行動を起こした漁師は沖に出られたが…
あの日、2024年1月1日。
輪島市は震度7の激震に見舞われた。
津波が発生するような地震が起きた時には、漁船を沖合へ出す漁師が多い。岸壁に係留していたら、津波に煽られて転覆したり、綱が切れて流されたりしかねないからだ。
しかし、輪島港から出せたのは「約200隻のうち13隻だった」と、沖合に出した漁師の1人に聞いた。
地震は2回発生した。午後4時6分に最大震度5強、そして4分後の同10分に最大震度7。
「4時6分の地震で港に駆けつけた漁師はなんとか沖に出られました。しかし、4分後の地震では一気に水が引いて、港の底が見えるような状態になったので、この時に港へ向かった漁師は船を出せませんでした」と、前出の漁師は言う。この人は最初の地震で行動を起こしたのだった。
その後も一部の船は沖に出られた。
「2回目の地震で水深が浅くなりすぎ、身動きが取れなくなった船もあったのですが、ちょうどその時に津波が押し寄せました。船を動かせるだけの水深が確保でき、エンジンを吹かして港から出たのです。しかし、このタイミングでも港内から出られず、港の真ん中で立ち往生した船もありました」と話す。