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使える港に分散することになった場合を危惧

 壊れた箇所が確認できても、どこでどうやって直すかが課題だ。平地が少ない輪島市だけに、輪島港の陸上スペースも狭い。なのに隆起や陥没が多数生じている。

 船大工など漁船を直せる事業者も輪島には少ないうえ、全て被災した。同じ能登半島でも七尾市などには一定の事業者がいる。だが、やはり被災している。

 壊れた漁船を七尾まで航行するのは無理と見られ、技術者に輪島へ来てもらう案も出ている。

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 国は今後、損傷がなかった漁船を使用して、地盤の隆起で海底がどのように変化し、漁業資源にどのような変化があったかの調査を、漁業者に行ってもらう方針を打ち出している。作業代を支払うことで生活費に充ててもらうのだ。

 しかし、「簡単にはいかない」と、刺し網漁師の上浜さんは考えている。

 もし、輪島港の浚渫で約200隻分のスペースが確保できなかった場合、県内の他の港に係留させてもらうことになりそうだ。「地元の船ではないので、外海のうねりが入るような条件の悪い岸壁に接岸させてもらうしかないでしょう」と上浜さんは危惧する。

「約200隻もの漁船を受け入れられる漁港はないので、使える港に分散することになれば、船の面倒を見るために漁師はそれぞれの港の近くに住宅を借りることになります。その港で漁をすればいいじゃないかと考える人がいるかもしれませんが、漁師が操業できるのは漁業権のある海域だけなので、勝手に漁をするわけにはいきません」と上浜さんは説明する。

係留されたまま動けなくなった上浜政紀さんの漁船(輪島港)

若手漁師が港の再建まで待てるのか

 そもそも輪島港をいつまでに、どのようにして再建するかも決まっていない。

 水揚げをするなら港湾だけでなく、荷捌き場などの施設の再整備も必要だ。金沢へ魚を運んでいたトラックの会社は営業を停止しており、流通手段の再構築も課題になる。

「今の港を掘るのか、それとも沖に新しく建設するのか。いずれにしても何年も掛かるでしょう。巨額工事になるだろうから、政府のやる気が問われます」と上浜さんは指摘する。

 上浜さんは、あと5年で65歳になる。「そこまでならなんとか耐えられるかもしれません」と話す。

「あと10年かかるなら、廃業するしかありません。まだ借金があるのに、船を造り直さなければならないのです。現在の価格では1隻当たり1億円から1億5000万円ほどかかります。70歳になってそのような借金ができるわけがない」と諦め顔だ。

 上浜さんと同じ刺し網漁をしてきた池澄勝雄さん(65)は、「輪島は若手漁師が多い港でした。40代以下の後継者が乗っている船は20~30隻あります。これほど若手が多い港は全国でも珍しいのではないでしょうか。でも、そうした若手が港の再建まで待てるかどうか」と心配する。