いまから40年前にその殺人事件は起きた。その翌年、さらに2年後にも事件は繰り返された。まだ大学生だった私は、事件の背景にある恩讐と愛憎に驚きながら、解決に向けて奔走する刑事たちを応援した。

 手がかりが見つかるたびに、まるで自分も解決に関わっているかのような気分になった。犯人は捕まり、事件は関係者のしあわせな未来を予感させて終わった。悲しい事件だったけれども、後味は良かった。感動した。

 これは実在の話ではなく1984年にNEC製パソコン用として発売されたアドベンチャーゲーム『オホーツクに消ゆ~北海道連鎖殺人~』の話である。事件のあらましはこうだ。

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東京で身元不明の男の死体が発見され、舞台は北海道へ

 東京、晴海埠頭で身元不明の男の死体が発見された。手がかりはポケットに入っていたキャバレーのチラシだけ。その細い糸のような手がかりを頼りに、刑事は北海道釧路に飛ぶ。そこで被害者と会っていた男の情報を得たが、彼も釧網本線北浜駅付近の海岸で死体となって発見された。

 次の手がかりは札幌だ。一方、網走、知床五湖で新たな殺人事件が発生。奇しくも網走刑務所で受刑者が作るニポポ(アイヌ人形)に、殺人事件の翌日だけ「涙が彫られたニポポ」が出荷されていた……。

晴海埠頭で死体が発見され、事件の舞台は北海道へ。(『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』より ©G-MODE Corporation/©ARMOR PROJECT ©KADOKAWA)

 作者は堀井雄二氏。前作『ポートピア連続殺人事件』は「犯人はヤス」のネットミームの元になり、後に『ドラゴンクエストシリーズ』で一世を風靡するゲームクリエーターだ。

 プログラミングとBGMは上野利幸氏。ゲヱセン上野のペンネームでも活躍するゲームライターだ。『オホーツクに消ゆ ~北海道連鎖殺人~』は1985年に別のパソコンに移植され、1987年にファミコン(任天堂ファミリーコンピュータ)版が発売された。

 ファミコン版は漫画家の荒井清和氏を起用してグラフィックデザインを一新し、上野氏のBGMも新たに作られた。このファミコン版が特に有名だ。

『ポートピア連続殺人事件』や『オホーツクに消ゆ ~北海道連鎖殺人~』は、1980年代のゲームとしては珍しい本格派推理アドベンチャーゲームだった。当時のゲームは射撃などのアクション系やパズル的な要素の作品が多く、ストーリーを楽しむアドベンチャーゲームはSFや異世界をモチーフとしたファンタジー作品が多かった。