3月11日、第96回アカデミー賞において宮﨑駿監督「君たちはどう生きるか」が長編アニメーション賞を受賞しました。東京・小金井市にあるスタジオジブリでは、その授賞式の生中継をジブリスタッフのみなさんが固唾を呑んで見守っていました。朝8時半過ぎ、受賞が発表され現場が歓喜に沸いたのは言うまでもありません。その直後、スタジオジブリの第1スタジオで、鈴木敏夫プロデューサーによる記者会見が開かれました。約60分に及んだ笑顔笑顔の記者会見の中には、ジブリファンもビックリの爆弾発言も……。

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「あれ、すごい反省しているんですよ、本人は」

鈴木敏夫プロデューサー ⒸStudio Ghibli

 ——一度引退されてまた復帰されてからの制作で、7年かかってできあがった作品が本作です。鈴木さんも宮﨑監督もひときわの思いがあると思いますが、いかがですか。

 鈴木 あの、よくね……狼少年でしたっけ。「引退するって言ったのに、また復帰して」みたいなね、そういうことがあるとは思うんですけども(笑)。まあ、作品っていうのはね、いつもね、「これが最後だ」って思って作るんですよね。で、(作品の制作中に)その次のスケジュールが決まってるっていうのは、本来は変なこと。常に映画監督っていうのはね、そういうことに晒されていると思うんですよ。

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 だから今回は特に宮﨑駿は、あの人の7年間の間にはいろんなことが起きたわけで、はたして今回の作品がいろんな人に受け入れられるのか、どうやって受け取られるんだろう、みなさんにちゃんと観てもらえるんだろうかと、彼はいつも以上に心配が大きかったんです。日本での映画の興行が始まったときにものすごく気にしていました、お客さんが来ているかどうかを。で、生涯「娯楽映画作家」として貫きたいから、どこかでお客さんが来なくなったらやっぱり自分は引っ込むべきだと、それを考えていたんじゃないかなという気がします。

 ——確認ですが、宮﨑さんからのコメントは出ない?

 鈴木 先ほどの方のご質問とちょっと関係あるんですよ。要するに「もう二度と作らない」っていう大記者会見をやったじゃないですか(笑)。あれ、すごい反省しているんですよ、(宮﨑監督)本人は。それでね、今回(の映画を)作るときだって、最初の言葉がね、「みっともないのはわかってる」って言ったんですよ。「本当にみっともないんだけど、もう1本作りたい」と、そういうことを言ったんですよ。

 と、同時に彼が言ったことがあります、「もう世間には出ません」。これはねえ、本心だと思うんです。一生懸命、皆さんの前で色々とご説明をしてもね、結果としては「嘘」になるわけでしょ。その愚行を繰り返したくない。本人としてはその気持ちだと思います。で、しかたがないから、それに関しては、僕が引き受けてやっているような次第です。

映画「君たちはどう生きるか」より ©2023 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

大叔父の「受け継いで」を眞人が拒否する意味

 ——NHKのドキュメンタリーでも高畑勲さんへの思いがすごく滲んでいたかと思うんですけれども、そのあたりの高畑さんへの思いがあれば教えてください。

 鈴木 やっぱり宮﨑にとってはね、ウン十年にわたるアニメーションの仕事なんですけれども、自分をいちばん最初に抜擢してくれたのは高畑勲だったんです。なおかつ、やっていく中でいろんな関係が生まれたんですよね、要するに「仕事仲間」であったし、「先輩」であったし、そして「友達」でもある。宮﨑はいまだに言いますけれども、「自分がいちばん影響を受けた人だ」と。だからこの作品を作っている途中で高畑勲は亡くなっちゃうんですけれども、まあその前からだったんですけども、僕と会うときには必ず高畑勲の話が延々続いたんです、いまだに言ってますね。だからね、どこかでそれを引き摺りながら作品を作ってるみたいなところがあるんです。

 だから今回の作品のなかで「大叔父」っていうのは高畑さんを想定して作ったキャラクターでね。これで、大叔父が言いますよね、「自分のそれ(仕事)を受け継いでくれないか」と。それを拒否する眞人っていうの(主人公)がいるんですけど、あれは(高畑氏が)亡くなってから初めて言えたんですよね。そんなふうに解釈していただけると、わかりやすくなるかと思います。