1000人は入る各区の講堂の舞台上で、プロの司会者の誘導によって村田と島倉らは熱唱し、それぞれ受刑者全員に向かって励ましのトークを行った。筋金入りの歌い手は大阪刑務所でも一切、手を抜かなかった。拍手や歓声が途切れることなく、講堂を包んだ。
「当時は慰問の最中はうるさいことは言わなかったんですよ。盛り上がってきたら、立ち上がってもいいし、口笛を吹いてもいい。アンコールを叫んでもよかった」
村田は2時間のワンマンコンサートをやり切り、慰問は大盛況で幕を閉じた。克美が入って来たことによって村田英雄の歌が聴けたと、彼の刑務所内での評価は上がったという。
「それが良いことか悪いことかは別にして、少なくとも罪を犯したひとりの人間に対して外からの励ましが届いたとは言えるでしょう」
刑務所における「慰問」の意味
坂本は慰問活動をこう位置付けている。
「刑務所が受刑者を更生させる施設だとすると、慰問はとても重要なプログラムです。特に人の心を震わせる歌手の慰問は、更生を後押しします。
慰問のスケジュールが出ると、心がほぐれて所内の空気が明るくなります。誰と誰が来るのかなどの詳細が発表されるのがひと月余り前。慰問当日まで、一般の受刑者たちはトラブルがあっても我慢し、どうしても我慢ならない喧嘩なら、決着をつけるのは慰問が終わってからと、仲介役を入れて一旦は手を握る。トラブルを起こして取調べのために独居房に入れられたら、コンサートを観られないですからね。
私が刑務官時代、自らの意思でボランティア慰問でよく刑務所を訪問してくれたのが、杉良太郎さん、八代亜紀さん、仁支川峰子さんといった人たちです。実際にその歌声や語りに癒されて立ち直っていった人たちがたくさんいました。
それは受刑者だけではありません。八代亜紀さんのステージでは、警備と監視を担当していた女性刑務官たちも感動していました。
女性の刑務所は、逃走、暴動等重大な保安事故が起こらないので、刑務官の配置定員が少なく常態的な人手不足となり、厳しい勤務条件下にあります。そんな日常に心が折れて退職を決めていた若い刑務官が八代さんのトークに感激し、もう少しがんばってみようと考え直し、受刑者から信頼される有数の工場担当になったというエピソードもあります」