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東京ドームに地鳴りのような大歓声が響いた

 3月9日。1次ラウンドB組が東京ドームで開幕。侍ジャパンは中国を8ー1で下し、白星発進した。大谷は「3番・投手兼DH」で出場。投げては4回1安打無失点、5奪三振で勝利投手、打っても左中間2点二塁打など2安打で初戦白星に貢献した。

 自身初のWBC、開幕投手。マウンドに上がると静寂に包まれ、シャッター音だけが響いた。先頭打者からスライダーで空振り三振。地鳴りのような大歓声が響いた。「球数(65)は決まっていたけど、その中でなるべくゼロに抑えることを考えた」。4回1死から2番・楊普(ヨウシン)に初安打となる左前打を許したが、2022年までソフトバンクに所属した3番・真砂勇介には5球連続スライダーで空振り三振。4番・陳晨(チンシン)もスライダーで見逃し三振など、5三振は全てこのスライダーだった。

 49球中、スライダーは26球(53%)。昨季後半も50%前後の割合を占めるなど、得意球としてきた球種。球数制限もある中、最も打ち取る確率の高いボールを選択し、4回をわずか49球。オープン戦登板は現地時間2月28日の1試合のみだったが、直球の最速は160キロを計測し無失点で抑えた。

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©文藝春秋

投手コーチが「大谷らしいところを久しぶりに見た」と明かした理由

 試合前ブルペンから大谷流だった。日本ハム在籍時の2016、2017年に投手コーチでもある吉井理人投手コーチは「ブルペンで1球もストライクが入っていなかったので、大谷らしいところを久しぶりに見た」と明かした。“大谷らしいところ”とは、ブルペンでストライクを投げるのではなく、変化球の曲がり幅や直球の回転など球質、リリースポイントの確認に費やしたところ。制球力に自信があるからこそ。

 この日の無四球がその証明だった。ストライクを投げるだけがブルペンではない。2014年の日本ハムキャンプで大谷が悪戦苦闘していたクイックモーションでの投球練習を思い出した。

 日本ハム時代の恩師で二刀流の生みの親でもある栗山監督と挑む初のWBC。かつてその恩師から「投げることに関してはうまくない」と評されたこともある「投手・大谷」が大舞台で進化の“凱旋登板”を飾り、中6日で16日の準々決勝に向かうことになる。