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ノラの夫を含む3人の距離感が見事
――そして現在。
ヘソンとの関係を12年前に断ちきったノラは、作家のアーサーと結婚し、ニューヨークで暮らしている。
ところがノラの結婚を知りながら、ヘソンが彼女に会いにニューヨークへやって来る。
24年ぶりの対面を果たすノラとヘソン、そしてノラの夫アーサーの心情に深く分け入る、この“現在”のパートの筆致は繊細にして鋭利だ。みずから脚本も書くセリーヌ・ソン監督の特質は、ここでの会話や、言葉にならない思いの描き方にいかんなく発揮される。
とくに見事なのは、それぞれの理由から恐れや戸惑いを抱く3人の、微妙な距離感のにじませ方だろう。
触れそうで触れない。
近いのか、離れているのか。
その距離感の細かなニュアンスを、台詞や表情を通してミリ単位で表現する演出力は並外れている。
ふたりには8000回の前世を経た“縁”があるのか
この映画の中心的なテーマとなるのは、“イニョン(縁)”という韓国の言葉だ。
見知らぬ人同士がすれ違い、袖が軽く触れあったとしても、それは前世からの縁。もし結婚するとしたら、そのふたりのあいだには8000回の前世を経た縁があるのだ、と。
輪廻転生の考え方に基づくその言葉には、神秘的でロマンティックな響きがあるかもしれない。
でもこの映画は、そんな甘美な感傷を排し、目の前に広がる現実を直視する。
ソール・ライターを感じさせる描写
印象深いのは、雷雨のニューヨークでヘソンをとらえた、さまざまなカットだ。ホテルの一室に伸びる影や逆光に浮かぶシルエット、窓を濡らす雨粒や水たまりに反射する街並み――。