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――戸籍の繋がりがなければ、現状は家族として見なされませんよね。

武田 行旅死亡人について規定する「行旅病人及行旅死亡人取扱法」という法律は、戸主を中心とした「家制度」が生きていた明治時代に作られました。現代は家族の形が多様化してきていますが、我々はいまだに明治時代の法律を抱えているわけです。

 ただ様々な調査から、今後も親族と疎遠で身寄りがない人や、独身のまま生涯を終える方が増えていくのは間違いないと思われますよね。そう考えると、もう少し柔軟に身元を確定できるようにならないのだろうか、と思わざるを得ませんでした。

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行旅死亡人として記載される官報の記事(著者提供、画像の一部を加工しています)

千津子さんの半生を追った記事が“バズった”理由

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 2人が追った千津子さんの半生は、2022年2月20日、21日に記事化された。総合ニュースサイト「47NEWS」で「現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性、一体誰なのか(前後編)」というタイトルで配信され、大反響を呼ぶ。

――記事公開後の反響はいかがでしたか。

武田 結構、社内からの反響がありましたね。「そんなことやってたんだ」「すごいことやってたね」みたいな。確かにあまり誰にも言わずに、仕事の合間を縫って取材していたというのもあったので。関東にいた頃の昔の先輩から電話がかかってきたりとかして驚いたりもしました。

――バズったことについて、心境としてはどうでしたか。

伊藤 私たち自身も、「こんなに読まれるなんて」とびっくりしました。堅苦しくならないように書いたのが良かったのかな、と思います。統計データなどをメインに据えず、誰もがスラスラ読みやすい内容になっていることも関係していそうです。

武田 ちょっとミステリーを思わせる文章構成が珍しかったのかな、とも。前後編の2記事ともバズるということは、私の経験では初めてのことなんですけど、両方読まれたということはそういう仕掛けが効いたのかなと思います。

 あとは「行旅死亡人」という言葉って、知らない方がほとんどじゃないですか。

――確かに、普段聞くことがない言葉ですよね。

武田 「行旅死亡人」自体は堅苦しい法律用語ですけど、その未知の言葉が持つ喚起力と言いますか、想像力を刺激するような要素もあったりしたのかなと。

 そんな、世間一般的にはよくわからないワードをタイトルに据えたことで、その「行旅死亡人」という単語がX(旧Twitter)のトレンドになったりもしたのだと思います。