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武田 ウェブ記事のあとに新聞記事にもしているので、それなりに多くの人に読まれているはずなんですけど、ごく僅かな連絡しかありませんでした。

伊藤 話題になった桐島聡容疑者のように、年齢を重ねて顔貌が変わって「まさかこの人が」ということもありえるかもしれないですね。

「自分や周りの誰もが、行旅死亡人になる可能性がある」

――今回の記事や書籍を読んだ方に感じて欲しいことなどありますか。

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武田 僕の中では、人の死というのがずっと大きなテーマとしてありまして。行旅死亡人になってしまうかどうかまではわかりませんけど、取材をする中で「自分がどういう風に亡くなるんだろう」と想像するなど、死について自分事として考えるような瞬間がすごくありました。

 普段、自分がいつか死ぬのだと考えながら生きている人はほとんどいないと思うんですよね。でもそれを考えることって、すごく大事なことだと思いました。「もうちょっとちゃんと生きよう」とか、そんな程度でも自分の人生を見つめ直せたら良いのかなと。田中千津子さんというかけがえのない1人の女性の死を通じて、自分の死というものを透かして見つつ、日常を生きてもらえたらと思っています。

伊藤 自分や周りの誰もが、千津子さんのように行旅死亡人になる可能性があるということも知ってほしいですね。旅先で亡くなったり、家で1人で亡くなったりする可能性があることを知ってもらったうえで、家族や周りの人々を大切にしたり、日々に活かしてもらえることがあればうれしいです。

取材を通して出会った人や場所も、それぞれが固有のドラマを抱えている

――最後に『ある行旅死亡人の物語』を執筆するにあたって、行間に込めた思いのようなものがあれば教えてください。

武田 意識して原稿の中に反映するようにしたんですが、千津子さんが生きた人生を追体験してもらえるように、という思いはありました。例えば、千津子さんが幼少期に暮らしていた「小用」という場所は、広島県の中でもとても小さな海辺の町なんです。

千津子さんが幼少期に暮らしていた広島県の海辺町(著者提供)

 そこで最寄りの図書館に2、3時間こもっては当時の町の状況や土地のことを調べたりして……どこまで読者の方に伝わるかはわかりませんけど、知り得たディテールをなるべく盛り込むようにしました。

 それと自分の中では、取材を通して出会った人や場所も、千津子さんを巡る物語の重要な要素なんです。それぞれが、固有のドラマを抱えている。もちろん、書籍中にそれらを全て紹介することはできないわけですが。

 それでも、そうした固有の人生や歴史を少しでも想像してもらえるように、たとえ本筋のストーリーとは無関係であっても、ちょっとした象徴的な一言、一文を加えるように心がけました。取材者である僕や伊藤を含め、それぞれの人生が少しずつ交錯していく中で垣間見えてくるものが、伝わればいいなと思います。

INFORMATION

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shuzai.information@kyodonews.jp