2022年に公開されたエルヴィス・プレスリーの伝記映画『エルヴィス』は、全世界で2億8800万ドルを売り上げ、オスカーにもノミネートされた。元妻プリシラ・プレスリーも、娘リサ・マリー・プレスリーも、バズ・ラーマン監督がリサーチを重ねて作り上げたこの映画を支持。このふたりはアワードキャンペーンにも協力している。

 一方、『エルヴィス』の公開後に撮影されたソフィア・コッポラの『プリシラ』は、同じロックスターをプリシラの視点から見つめる作品。プリシラはエグゼクティブ・プロデューサーを務めるが、23年1月に急死したリサ・マリーは、脚本の中の父エルヴィスの描写について、早くから反対の声を上げていた。

『エルヴィス』と異なるプリシラ像

 たしかに今作のプリシラは、幸せな結婚生活を送っていたように(最後に離婚を突きつけるまでは)見える『エルヴィス』での彼女と、かなり違う。

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 だが、この映画の原作は、80年代に出版されたプリシラの回顧録『Elvis and Me』なのだ。しかもコッポラは、プリシラ本人に会って聞いた話も加えて脚本を書いている。

「プリシラは私に大きく心を開いてくれて、あの頃を振り返り、細かいことまでしっかりと話してくれたわ。彼女とは、このプロジェクトを始めた頃から話をしている。

 脚本も話を聞きながら書いたし、書き終えた後は一緒に読みながら細かいところを詰めたのよ。おかげで脚本はより人間味とリアルさのあるものになったと思う。

ソフィア・コッポラ監督(左)とプリシラ本人(ソフィア・コッポラ公式インスタグラムより)

 たとえば、映画館でエルヴィスがハンフリー・ボガートを見ながらリップシンクするシーンも、回顧録にはなく、彼女が教えてくれた話にもとづくもの。エルヴィスのアーティストとしてのフラストレーションを表すあの場面は、とても重要だと私はとらえている。彼はシリアスな俳優として認められたかったのよ。

 プリシラがメンフィスの妻たちのグループに入れず孤独だったこと、理想的な女性でいなくてはというプレッシャーを抱えていたことなども、彼女から直接聞いた貴重な話」

 この回顧録を読んだのは、あくまで偶然。映画の素材を探していたわけでは、決してなかった。