プリシラは、外からは見えない、家の中での彼について語る。弱い部分も含めて、彼はどんな人だったのかを。良いことだけではなく良くないことも、彼は体験した。とてつもなく魅力的な人だった彼は、ダークな部分も抱えていたの。
エルヴィスとプリシラの関係には複雑さもあった。でも、彼を悪者にするつもりはなかった。彼には彼なりの葛藤があり、それをプリシラの目を通じて見ようとするのがこの映画なのよ」
撮影中ずっとエルヴィスの声だったジェイコブ・エロルディ
エルヴィス役に抜擢されたのは、現在26歳のオーストラリア人俳優ジェイコブ・エロルディ。誰もが知るこの有名スターになりきるべく、エロルディは、自分のトレーラーの壁をエルヴィスの写真で埋め尽くし、常にエルヴィスの音楽を流していたという。
「撮影中、彼はずっとエルヴィスの声で話してもいたわ。カメラが回っていなくても、同じような話し方を保っていた。だから、撮影が終わってしばらくしてから話した時、彼との話で突然オーストラリア訛りが出てきた時は、本当の声はこんなだったのかと、驚いたぐらい。
でもそんなふうに本気で役作りをしてくれたことは、映画のために重要だった。私の狙いは、ただの物真似ではなく、プリシラの思い出の中にいる人としてのエルヴィスをスクリーンに出してくることだったから」
14歳から28歳までのプリシラをわずか30日で撮影
主人公のプリシラ役には、ミズーリ州出身のケイリー・スピーニーが選ばれた。
2時間弱のこの映画で14歳から28歳までのプリシラを演じるものの、予算が限られていたため、撮影期間はわずか30日。10代の頃と20代なかばを同じ日に撮影するようなことも多々あったが、時代、年齢によってヘアメイク、服装が大きく変わることが、混乱を避ける手助けになった。
「ヘアには毎回何時間もかかったし、きつかったはず。でも、ケイリーは一度も不満を言わなかった。映画に必要なことだったから。編集して(それぞれの時代の描写が)うまくいったとわかった時は、ほっとしたわ」
そんなスピーニーは、この映画の世界プレミアが行われたヴェネツィア映画祭で最優秀女優賞を受賞。作品も、アワードシーズンにはかかってこなかったとはいえ、各方面から高い評価を得た。原作の出版から長い年月を経て映画化され、世間からも良い形で迎え入れられたことには意味があると、コッポラは感じている。