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スポーツをやってきた人の底抜けの明るさ

――小蔵屋の従業員の久実さんも、人懐こい雰囲気がありますが、彼女はどういうイメージでしたか。

吉永 ずっとスポーツをやってきた人なんですけれど、そういう人ってどこか底抜けに明るいイメージがありました。こうきたらこうする、という反応が脊髄反射のように速くて、無駄に悩まない(笑)。二進(にっち)も三進(さっち)もいかない時、そばにいる人がやたら明るいというだけでも救われますよね。食欲旺盛なところも見ていて気持ちがいい。お草には子どもも家族ももういないわけですが、そこに100ワットの明るさでいてくれるところがいいですよね。

瀧井朝世さん ©榎本麻美/文藝春秋

――『花ひいらぎの街角』では、彼女の恋愛模様も出てきて、これが切なくて。うまくいきそうな出会いもあるのだけれども……。

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吉永 恋愛に慣れていないところが、初々しくて良いですよね(笑)。オーソドックスな大家族に育ったという背景もあると、ああいう選択をするのかなと思ったりもしました。お草にもどこか学ぶところがあったのかもしれません。人間が一緒に暮らしていくとはどういうことなのかなと、たぶん真剣に考えたんでしょうね。

――他の女性たちも印象に残ります。『花ひいらぎの街角』に出てくる印刷会社をやっていきたいという女性や、『まひるまの星』に登場するシングルマザーの道を選ぼうとする女性など、女の人の生き方の話も盛り込まれていると感じます。

まひるまの星 紅雲町珈琲屋こよみ (文春文庫)

吉永 南央(著)

文藝春秋
2018年3月9日 発売

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吉永 そうですね。お草が若かった時代は、戦争で何もかもボロボロになっていて、破壊されつくしちゃった状態でした。何もないから何をしてもいいというか、人間の生き方も千差万別だったと思います。そんなお草から見ていると、今の若い世代の意思のはっきりした女性たちが、自分の生き方を自由に選択しようとしている姿は面白く見えるんじゃないかなと。もっと中間の世代から見ると若い人たちの行動は「そんな突拍子もないことを」と言いたくなるかもしれませんが、お草から見ると面白く見えるし、手助けしたくなるかもしれない。今の時代は今の時代なりに難しいことはたくさんありますが、敗戦後のとんでもない時代よりはましなわけで、その時代に自由に生きていく人たちのことを、すれ違うようにして眺めていくのは、お草にとっては結構楽しいことじゃないかと思います。

お草がこれからどうなるか……それはお草に訊いてみましょう(笑)

――次作は冬の話になるということでしょうか。

吉永 春の話を書き始めた時はそのつもりでした。今『花ひいらぎの街角』を書き終えたばかりなので、次のことは保留している段階です。この後はどうしようかな、と。

 シリーズを始めた時から、おっかなびっくり首をかしげながらだったので、この後どうするのかというのもこれから真剣に考えましょうという感じです。お草がどうするのか、それはお草に訊いてみましょう(笑)。

――このシリーズ以外のもので書き進めているものはあるのですか。

吉永 今書き進めているものがありますが、なにせ書くのが遅いので、もうちょっと時間がかかります。他にも書きたいものはあるのですが、じっくり集中して取り組まなくてはと思っています。

――日常を舞台にして、現代社会が内包する問題を盛り込んでお書きになっている印象がありますが、そのスタイルは変わりませんか。

吉永 今、これまでと違う表現のものも書いています。必要があってそうしています。私自身が生きている中で感じたことや、こうなったらいいのにと思う社会問題などを、何かの形に変えて提供するのが一番いいのかなと思っているんですが、今感じて書き始めても、間に合うのかなと思うこともあって。お草が他人の家の窓を割って子どもを助けようとするような勢いで、もっとしなきゃならないことがあるんじゃないかという思いもあります。それを読んでもらえるよう物語の形にしているうちに事が過ぎてしまうなとも考えてしまって……。物語というものと、私の技量もあって、いろいろ難しいですね。ただ、チャンスをいただければ、一生懸命書こうというのは最初の頃から変わらないです。