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古い記憶を明るく染める シリーズ最新刊『花ひいらぎの街角』──「作家と90分」吉永南央(後篇)

話題の作家に瀧井朝世さんがみっちりインタビュー

2018/04/14

genre : エンタメ, 読書

note

◆読者からの質問

◆店で働く久実ちゃんと、主人のお草さんとの関係が素敵です。お店と、この2人はこれからどんな展開を見せるのでしょう?(40代・男性)

吉永 どうなるといいでしょうね(笑)。生きている以上は、必ず何か変化しますよね。同じままというわけにはいかないから。難しいところです。

◆お草さんの作るお料理、珈琲、レストランのメニューなど、食べ物がおいしそうです。吉永さんはお気に入りのお店はありますか? (20代・女性)

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吉永 たくさんあります。小食の食いしん坊で、なかなかたくさんは食べられなかったりしますけれど。もうなくなってしまったお店もあるんです。なぜか好きな店からなくなる(笑)。高崎も、本当に何軒か、あのテーブルにもう一回座りたいと思うお店があります。たぶん、人が懐かしいんだと思います。シェフの顔を思い出します。夏バテして何も食べられなくて、仕事だけ忙しかった時に出てきたかぼちゃの冷製スープなんて、もう一回食べたいなと思いますね。そのお店のテーブルクロスとか、人を迎える時のウェルカムな雰囲気とか、料理に対する真摯さとか、思い出します。お草のコーヒーの師匠のシェフ、バクサンはそのシェフのイメージがあります。亡くなられたんですけれど。シェフのイメージを何かの形で残しておきたかった。

◆ミステリーの要素が、普通の町で起こる出来事をテーマにされていてリアルです。山車蔵とか、古い付き合いの人たちの仲違いとか、子どもの問題、認知症としみじみと考えさせられます。今気になるテーマはありますか? (50代・女性)

吉永 国政選挙で投票率が低いこと。地方選挙も同じかもしれませんが、人任せにしているうちにどうなってしまうんだろうと思いますね。文句を言うのは簡単ですけれど、じゃあ代表をちゃんと選んでいるかというと、それは私たちの責任なので。今、必要なことを遠回しに言っているうちに政治は待ってくれなくて、どんどんいろんなことが決まって、その中で私たちも生きていかなくてはいけないわけです。でも主権者は私たちで、代表者を決めているのは私たちなわけだから、せめてみんな投票に行って、後悔のない選挙にして、土台をきちんと作れる国にならないと、かなり危険なんじゃないかと感じます。人にはいろんな考え方があるとは思っているので、これまではそういうことはあまり言いたくないほうだったんですけれど、やっぱり必要なことなので、今は言うようにしています。うまい食べ物を食べて飲んで遊んで、投票にも行くと。そこまで頑張ってもらいたいなと。

◆吉永さん自身、和食器や着物、コーヒーがお好きなのでしょうか。どんな食器やコーヒーがお好きなのか教えてください。(40代・女性)

吉永 これを言うと怒られそうなんですが、カフェインを摂りすぎるのが駄目なんです。お店では美味しいコーヒーをいただきますが、普段家ではコーヒーの香りだけ欲しいという時があるので、インスタントコーヒーを薄めに入れて、香りを楽しんでいます。ただ、緑茶もそうですが、上手には淹れたいですね。適温のお湯を使うとか、器を温めておくとか、茶葉は気に入ったものをお茶屋さんで買うということはしているんですけれど。

 食器は引っ越しの時などに不要なものはあらかた処分しました。なので意外とこれだけで生きていけるんだなというくらいしか持っていません。古いものでずっと使っているものもありますね。夫の母が使っていた銅の茶筒とか。それと、シンプルなものが好きです。長崎の波佐見焼の窯元の、一真窯の器はお店で見た時に、あ、格好いいと思ったんですね。真っ白で、器や湯呑などいろんな形があって。これだったらお茶を飲んでもコーヒーを飲んでも合うし、朝にちょっとスープを入れてパンの横に置いてもいいな、とか。蕎麦ちょこに使ってもいいな、とか。それを気に入って結構使っていますね。

◆私はほぼ毎日夢を見ますが、毎月一定の期間だけ同じ夢を見ます。周囲に訊くとそんなローテーションで同じ夢を何十年も見ない、とのこと。そんな経験はありますでしょうか。(30代・女性)

吉永 そういう経験はないですね。夢は見る時はフルカラーで映画のように見ているんですが、内容は案外忘れてしまいます。小さい時はしばらく、葬列で父と母が歩いていく夢をよく見ました。それはたぶん、長兄が亡くなっているので、それを人から聞いて、自分の中で映像ができちゃったんでしょう。

◆吉永さんのお祖母さんはどんな方だったのですか。(50代女性)

吉永 着物を着て晩年まで現役で働いていました。そこはお草に似ていますね。中味は違いますけれど。

吉永南央さん ©榎本麻美/文藝春秋

◆草の「ありがとう」の「とう」の部分が高いのは、方言なのでしょうか?(30代・女性)

吉永 祖母もそんなふうに言っていたんです。でも、方言というわけではありません。なぜか関西弁に似ているとも言われました。なぜそう言っていたのかは分からないんですが、祖母から拝借しました。

高崎の観音様はマリア様のように美しい

◆小蔵屋のようなお店が自分の町にあればよいのに、と思わずにはいられません。登場するギフトセットなどは、吉永先生がご自身で考案されているのでしょうか。NHKでドラマ化された「小蔵屋」はイメージ通りでしたか。(50代・女性)

吉永 商品などは、お草の気持ちになって、私も楽しみに空想して作っているものだったりします。NHKのドラマは、本当に苦労していただいて。お草の小蔵屋のひとつの形を、現実に作っていただいたと思っています。

 出来上がった後にスタジオにお邪魔して、「うわあ、本当にお店だ」と思って驚きました(笑)。

◆小説を書く時、事前に取材はしますか。取材をして「これは小説に書ける」と思うのは、どんな時でしょうか。(30代・女性)

吉永 書けるか書けないかというよりも、書きたいなと思って取材をしますね。でも、取材を申し込んだりはせず、普通にお客さんとして通りすがりに入ったという感じで行きます。そのほうが裏話も聞けたりするんです。どうしても取材で行くと、私の訊き方もよくないんでしょうけれど、かしこまられてしまって、訊きたいことが聞き出せなかったという苦い思い出があるので。なので普通にそのお店なり場所なりに行って、居合わせた人にいろんなことを訊いてみるとか、何回か通ってみるとかしています。『キッズタクシー』(15年文春文庫刊)の時は、一生懸命タクシーに乗りました(笑)。

◆前橋出身なのでいつもワクワクして読んでいます。吉永さんは群馬県立女子大ご出身と聞きましたが、群馬はあまり美味しいものもなく、名物は「空っ風とかかあ天下」とあまり色気のない土地だと思うのですが、高崎をモデルにしてくださったのは、群馬に何か魅力を感じてくださったのでしょうか。とても嬉しいですが、不思議です(笑)。(40代・女性)

吉永 私は群馬の人たち、特に高崎、前橋の方たちによく言うんです。こんなにいろんないいものがいっぱいあるのに、なんで「何もない」とか言うの、って。私は大学の時に外から入ったからかもしれませんが、いろいろあるじゃん、と思うんですよ。高崎なんか特に商都なので、昔から地元で商売をやっている方がとても多い地域ですし、ずっと住んでいる方は外から見た目を持っていない場合が多いですよね。

 高崎の観音様ひとつとっても、東のほうに寄って西に置いて眺めてみると、マリア様みたいなんですよ。暮れ時はライトアップされて白く浮かび上がって、すごくきれいに見える。でもそれを言うと、みんな笑うんですよね。「何言ってるの」って。笑われたけれど、今作品の中でこうして出しているんだぞ、という感じですね(笑)。

 井上房一郎邸という、結構有名な建築家の自邸を写した家も一般公開されているんですけれど、あまり地域の人は意識していなくて。それで『オリーブ』(10年刊/のち文春文庫)の中の一作に書いたりもしました。あんなに素敵なのに、って思って。群馬交響楽団もありますし。前橋だって、萩原朔太郎がいたわけだし。「上毛かるた」だけじゃないんですよ(笑)。

吉永南央さん ©榎本麻美/文藝春秋

吉永南央(よしなが・なお)

1964年埼玉県生まれ。2004年「紅雲町のお草」でオール讀物推理小説新人賞を受賞。2008年、同作を含む『紅雲町ものがたり』(文庫『萩を揺らす雨』)で単行本デビュー。他の著書に『オリーブ』『キッズタクシー』『ヒワマン日和』などがある。

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※「作家と90分」吉永南央(前篇)──ヒロインは70代のおばあちゃん!「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズ──から続く bunshun.jp/articles/-/7000

古い記憶を明るく染める  シリーズ最新刊『花ひいらぎの街角』──「作家と90分」吉永南央(後篇)

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