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 その映像は牧師が背広の袖に隠しカメラを仕掛けて撮影したもので、しかも総選挙が近づいた昨年冬にわざわざ公開されている点から、尹大統領側は「陰謀に巻き込まれた」と主張した。

 それでも、ブランドバッグを受け取った事実は変わらない。野党は執拗に追及を続け、世論も説明を求めたが、尹大統領の対応は歯切れが悪く、「家族のことですら説明ができないのか」と失望感が広がっていた。

 尹大統領は所属する「国民の力」党内でも人気がなく、総選挙の立候補者たちのなかで選挙活動の公報などに尹大統領の写真を使用したのはわずか18%。選挙10日前には、尹大統領の離党を求める異例の声も出た。

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ソウル市内の地下鉄駅前に掲げられた与野党候補者の横断幕 筆者撮影

 尹大統領は就任した時点で「ねじれ国会」状態であり、公約に掲げていた改革案は宙に浮いたままだ。大統領選挙時に最大のイシューとなり、30代男性の票を取り込んだ「女性家族省」(男女平等や家族政策を総括支援する行政機関)の廃止も、就任から2年が経った今もいまだに実現していない。

日米との友好路線はいまのところ変わらなそうだが…

 今回の総選挙でも野党が過半数を獲得すれば「ねじれ国会」はそのまま、尹大統領のレームダック化は必至だ。さらにもし野党の議席が3分の2を上回れば、大統領の「法律拒否権」も効力を失い、改憲さえ野党だけで実現できてしまう。レームダックならぬ、デッドダック状態となる。

 韓国は大統領制のため尹政権が推し進めてきた日米との友好路線は変わらなそうだが、より中国・北朝鮮に近い野党勢力が独断で法案を通せる状態になれば話は変わってくる。尹政権が日本と交わした合意事項も、覆される可能性が出てくるからだ。

 選挙期間中は、公約よりも互いを罵倒するフレーズが飛び交った。野党は与党に対して「検察独裁」と叫び、与党は野党を「犯罪者集団だ」と繰り返した。

 そんな荒れた選挙の行方を握るとして注目を集めているのは、20~30代だ。彼らは「自分たちの生活をよくはしてくれない」尹大統領も、複数の疑惑で裁判を抱える野党の李在明代表・曺国元法相も拒否している。韓国では「選挙は当日まで何が起きるか分からない」といわれるが、選挙結果によってはふたたび厳しい日韓関係の幕開けになるかもしれない。