これを見た坂本さん夫妻は、ある疑問を抱いたといいます。
「事故直後の加害者の供述調書には、『決して居眠り運転はしておらず、左手は肘掛けに掛け、ハンドルは右手で片手で持ちながら運転をしていました』と書かれていました。つまり、自ら片手運転を認めているのです。起訴状には『考え事にふけって』と書かれていますが、ひょっとすると、『ながら運転』の可能性もあるのではないか? そう思ったのです」
そこで、坂本さん夫妻は念のため、大津地検彦根支部に「加害者は、ながらスマホなどではなかったのですか?」と質問しました。
すると、検察官は、
「加害者本人が、スマホは操作していないと言ったので、操作履歴等の捜査や確認はしていません」
そう答えたというのです。
「思わず耳を疑いました。たしかに加害者の調書には、『スマホはコンソールボックスの上に置いており、触ったり、操作等は絶対にしていません』という供述が記載されていました。しかし、前方不注視で被害者死亡という重大事故を起こしているのです。加害者本人が、触っていないと言えば、なんの裏付け捜査もせずにそれを鵜呑みにしていいのでしょうか」(勝さん)
私と娘のスマホは中身を見られたのに…
喜美江さんも憤りを隠せません。
「実は事故から2カ月後、私は警察で、私と娘のスマホの中身を見られたんです。事故当日の夜、娘からメールが届いたという話をしたら、確認したいと言われて。死亡した被害者のスマホは調べておきながら、加害者のスマホの履歴は調べもしないなんて、いったいどういうことでしょうか」
坂本さんが依頼していた被害者支援代理人の弁護士も、検察に対して「スマホの操作履歴を捜査すべき」と申し入れました。しかし、「スマホの使用履歴は半年で消えるので、もう無理だ」という答えが返ってきたそうです。
そして2021年3月、加害者に下された判決は、禁錮3年執行猶予5年。検察の求刑は禁錮3年6月でした。