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何のための厳罰化なのか

「ながらスマホ」か否かで刑の重さは大きく変わります。例えば、名古屋地裁は先月、スマートフォンのゲームをしながら乗用車を運転し、自転車の男性をはねて死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪に問われた元県立高校教諭に、禁錮2年4月(求刑禁錮3年6月)の判決を言い渡しました。

また、2018年、関越自動車道でワゴン車が前方のバイクに追突し、バイクの女性が死亡した事故では、加害者の男性が自動車運転処罰法違反(過失致死)の罪で懲役3年の実刑判決を受けています。この加害者は時速100キロで走行中、スマホのLINEアプリで漫画を読んでいる様子が自車のドライブレコーダーに映り込んでいました。

筆者はこれまで、運転手の「ながらスマホ」が引き起こした交通事故の被害者・遺族を数多く取材してきました。裁判では「悪質さ」があると認定され、実刑判決が出されるケースが多く見られます。その一方で、警察が事故の性質や量刑に関わる重要なポイントである「スマホの中身」を調べなかったケースが全国各地で起きていることも取材する中で実感しています。

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あのような見通しのいい直線道路で、しかも横断歩道を渡っている瞳さんに、加害者は気づけなかったのか。なぜ警察と検察は、加害者のスマホの中身を調べることもせず、加害者の言い分をそのまま採用したのか――。納得できなかった坂本さん夫妻は、2023年夏、警察庁、検察庁に宛てて、なぜ、スマホの履歴を確認しなかったのかなど、初動捜査に関する質問状を送りました。

しかし、検察からは形式的な電話での返答があったのみ。警察庁からは「捜査担当は滋賀県警である」と、たらいまわしでした。喜美江さんは言います。

「2023年12月、彦根警察の担当者に質問したところ、ながら運転の捜査に関しては明確な捜査規定がないので捜査していない、証拠保全も規定なしと言われました。では、実際に交通事故が発生した際、ながら運転についてはいったいどのように立件していくのでしょうか。ながら運転厳罰化と言いながら、加害者の供述だけを鵜呑みするのは言語道断です。あらゆる方向から捜査することが基本であり、捜査の鉄則ではないのでしょうか。私たちはそのことを法務省に要望したのです」