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「『うる星』16ページを3日間で」「先生は物語を“作って”いないみたい」…担当編集者を驚愕させた、高橋留美子の創作術に迫る!

高橋留美子・歴代担当編集者インタビュー #3

source : 週刊文春Webオリジナル

genre : エンタメ, 読書

note

「まるで実在の人物を紐解くように…」

岡本 実を言うと、一番驚いたのは「決まっていない」ことなんです。

森脇 結末が?

岡本 むしろ原因と言いますか。打ち合わせが「この時、彼はいったい何をしていたんですかね?」という先生の疑問から始まるんですよ。そして「この人はこういう風に考える人間だから、こう動くのでは?」と応酬を重ねていく。実際にあった出来事を推測しているようで、一から“作っている”感じがしないんです。

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―― なるほど、「探っている」に近いのでしょうか? 全貌は見えないけれどすでにその人物や事件は存在していて、掘り下げながらその輪郭を掴んでいく。

岡本 そうかもしれません。自ら生み出したキャラクターなのに、実在の人物を紐解いていくようにおっしゃる。そんな作家さんは初めてでしたね。

『MAO』より。登場人物それぞれの思惑が「呪い」を核に絡まり合っていく/『高橋留美子原画集』より

―― 打ち合わせそのものが推理劇のようですね。「今」の地点から過去に思いを巡らせることで、謎が徐々に解き明かされていくスリルと臨場感があって。

森脇 それに関連して、ひとついいですか? 僕、『MAO』がスタートする前に物語の軸となる事件のあらましをエクセルで年表にまとめたんですよ。

岡本 私も作りました。時系列が複雑なので、誰がどこで何をやったかを分単位で整理して。

森脇 だよね、作るよね(笑)。先生は「ありがとうございます」と受け取ってくださったけれど、おそらくそんなに役立たなかったんじゃないかな。というのも、やっぱり先生は週刊連載作家だけあって「ライブ感」を楽しんでいるんですよ。「私自身がドキドキしないと筆が進まない」とおっしゃっていて、正確な年表は頭の中にあるけれども、ガチガチに捕らわれずに「こうだったらより面白い!」というアイディアがあれば、どんどんぶつけて壊して新たな形に変えていく。それから辻褄合わせをしていくんです。「生の感覚」をとにかく大事にされているんだなと、近くで見ていてひしひしと感じましたね。

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