『プロジェクトX』の声をやっている人だから…周りの対応が変化
――パンクバンドのご活動はいまも断続的に続けてらして。田口さんも、その時の大人の世代になっている。
田口 もっと上ですね。僕はもう、夕暮れ時を迎えていますからねえ。
――6年前のインタビューで、「プロジェクトX」がキャリアの転機だったとおっしゃっていました。
田口 それまでは小さいインディーズ系の映画をメインにした俳優というイメージで、周囲からも「なにやってる人?」みたいな。悪役もよくやってましたし、ちょっと変わった俳優さんという認識だったのが、「あの人はいい人に違いない」って。近所の人の反応や、不動産屋さんの対応が、まったく変わりましたね。「『プロジェクトX』の声をやっている人だからいい人に違いない」という評価に(笑)。
「30歳以上の人間は信じるな」と教えられたけど
――戸惑いなどはありました?
田口 わるいことできないなって思いました。酔っ払って立ちションとか、コンビニでエロ本を立ち読みしてるとか(笑)、そういった人生の小さなよろこびが削られていった側面はありました。番組が著名になればなるほど、汚せない。
しかもドキュメンタリー番組という物語のなかで、そこに関わっている技術者たちが人生を懸けてつくりあげたものを、成功した人もいれば、チャレンジして失敗した方たちの屍と共にある番組でもあるわけですから、彼らに失礼なことをしてはいけないなと。
だから立ちションはしなくなりました。とくに立ちションにこだわるわけではないですけど(笑)。
――そんな田口さんも、いまではまわりに大事にされるようになって。
田口 あはははは、ちょっとね。ちょっとだけ、気を遣われるようになってる。歳をとりましたからね。
昔のパンクス時代は、「ドント・トラスト・オーバー・サーティー(Don’t trust over thirty)」といって、「30歳以上の人間は信じるな」と教えられて、あっという間に30歳を過ぎて。でも「人生は黄昏から」といっている人もいますから、それをまっとうできるといいですよね。楽しみながら。
撮影 志水隆/文藝春秋
ヘアメイク 原さとみ