昨年のオスカーにノミネートされたバズ・ラーマン監督の『エルヴィス』で、妻プリシラ・プレスリーは脇役だった。ソフィア・コッポラ監督の『プリシラ』は、その逆。同じ人たちの話をまるで違う視点で語るこの映画の主演に抜擢されたのは、現在25歳のケイリー・スピーニーだ。

「私の家族は大のエルヴィスファン。私は彼の歌を聴きながら育ったし、家族でグレースランドに旅行もしたわ。だけど、プリシラについての私の知識は、エルヴィスの妻だったということくらい。この映画に出て、彼女にとってどんな経験だったのか、初めて知ることになったの」

ケイリー・スピーニーさん

 脚本を読んだリサ・マリー・プレスリーは、父の描かれ方に反感を持ち、抗議をしている。だが、映画のベースになるのはプリシラがずっと前に書いた回想録なのだ。プリシラ本人はこの映画に協力的で、コッポラやスピーニーともたっぷり話をした。

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「彼女から言われたのは、愛をきちんと描いてほしいということ。原作と脚本には彼女が経験した辛いことがたくさん書かれている。でも、彼らは愛し合ってもいたのよ。それが物事を複雑にするの。エルヴィスについて話す時、プリシラはその頃を思い出して優しい表情になる。彼らは楽しい時間も共有した。でも、プリシラのそばにいたのはエルヴィスの友達とその妻たち。プリシラはそこに入っていけず、孤独を感じていたの」

 西ドイツ(当時)でエルヴィスに出会ったプリシラが親元を離れ、グレースランドに単身で引っ越したのは、高校生だった17歳の時。

「そこは私にも理解できるわ。私は13歳で女優になると決め、高校を中退した。プリシラは同じような年齢で愛する人に出会い、彼と生きると決めたの。ソフィアは若い女性が持つ願い、フィーリング、複雑さを、美しくとらえてくれる監督。観客もきっとこの映画のプリシラの気持ちをわかってくれるはず」

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 映画では、10代から20代なかばまでを演じ分ける。

「妊娠でお腹が大きいシーンを午前中に撮影したかと思ったら、ランチ休憩を挟んで午後は14歳のシーンの撮影だったりしたわ。撮影期間は全部でわずか30日、順番もばらばらだったけれど、ヘアメイクと衣装が時代によって大きく変わるおかげで、今自分がどこにいるのかを認識できた。後半のプリシラは、エルヴィスが嫌っているデニムを着ていたりする。彼女が自分の選択をするようになるから。この映画で服はただの衣装ではないのよ。そこにはストーリーもあるの。だけど、個人的には、素敵な服をいくつも着られたのも純粋な意味で楽しい経験だったわね」

Cailee Spaeny/1998年、米ミズーリ州生まれ。出演作に映画『パシフィック・リム:アップライジング』『ビリーブ 未来への大逆転』、ドラマ『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』など。『プリシラ』でヴェネツィア国際映画祭の女優賞を受賞。

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映画『プリシラ』
4月12日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー 配給:ギャガ
https://gaga.ne.jp/priscilla/