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連載春日太一の木曜邦画劇場

カラオケBOXで主題歌を選択、凝縮映像に満足!――春日太一の木曜邦画劇場

『野性の証明』

2018/04/17
note
1977年作品(143分)/KADOKAWA/1800円(税抜)/レンタルあり

 外回りの仕事の合間にふと時間が空いた時、一人でカラオケBOXに行くことがある。思うまま歌って気晴らしするのはもちろん、ソファに横になって仮眠をとったり、テーブルで簡単な仕事をしたり、いろいろと便利に使えるのだ。

 先日もそうだった。前の取材が早く終わり次の待ち合わせまで二時間ほどできたので、カラオケBOXで寝ることにした。が、そうはいかなくなった。映像配信をしているDAMが、角川映画の主題歌のカラオケ映像に(期間限定ながらも)映画本編を使って配信――そんなニュースがモニターに流れてきたのである。寝るどころではなくなった。これはもう、観るしかない。

 配信されていたタイトルは二本あった。一本は『人間の証明』、そしてもう一本が今回取り上げる『野性の証明』だ。

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 ある寒村で起きた大量虐殺、記憶を失った生き残りの少女と彼女を育てる謎の男の触れ合い、そして自衛隊の特殊部隊による陰謀――ミステリアスな物語が、壮大なスペクタクル映像と共に描かれていく。

 とにかく、映像のスケールが大きい。海外ロケをふんだんに使い、自衛隊の演習シーンでは本物の戦車やヘリコプターまで大量に登場する。

 加えて、キャストも豪華だ。主役には高倉健、少女役にはこれが映画デビュー作となる薬師丸ひろ子、黒幕となる財界の大物役に三國連太郎、主人公を執拗に追う刑事役に夏八木勲、特殊部隊のリーダーに松方弘樹――。最高のロケーションと濃厚な役者たちの織り成す映像は、どこを切ってもインパクトの大きいものばかりであった。

 では件(くだん)のカラオケ映像は、というと。リモコンで主題歌の『戦士の休息』を予約すると嬉しいことに、そうした印象的な見せ場の数々が次々とモニターに映し出されてきた。地平線の向こうから現れる無数の戦車軍団に始まり、民衆から歓待を受ける三國、薬師丸の肩を抱く高倉、パラグライダーを使って格闘する自衛隊員、ヘリコプターからマシンガンを撃ちまくる松方――。

 それだけでは終わらない。「何か」を思い出した薬師丸とそれを知ってハッとする高倉、高倉に手錠をかける夏八木、ぐったりとした薬師丸を背負って戦車軍団に向かっていく高倉――といった物語の重要な核心に触れる場面まで、これでもかといわんばかりにぎっちりと詰め込まれていた。

 わずか数分の映像に過ぎないのだが、映画を観た時の興奮が蘇り、歌わずとも映像を眺めているだけでかなりの満足感を得ることができた。

 この勢いでDAMとKADOKAWAには全作品の主題歌のカラオケ映像での本編使用を目指してほしいものだ。

カラオケBOXで主題歌を選択、凝縮映像に満足!――春日太一の木曜邦画劇場

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