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一目で相手の本性を見抜く〈魔女〉
この小説の主人公「水原」は、相手の本性を、外見からある程度見抜くことができる能力を持った、30代半ばの女である。
“裏のコンサルタント業”を営む水原は、午後5時に起き、午前0時過ぎに、東京・麻布台にある事務所に出勤する。フィットネスジムに通い、「女磨き」を欠かさないのは、〈それを武器に使えるときもあるし、寝たいと思う男を落とすにも役立つ〉から。相手を完璧に見抜ける力を生かし、暴力団にも中国マフィアにも一目置かれる存在にのし上がった。打算と媚びをはらんだ、こすっからい根性が透けて見える人の笑顔に嫌気がさすと、日本を出て、異国のリゾート地で贅沢な数日間を過ごす。それだけの財力も蓄えている。
“鉄味(てつあじ)”といわれる精液の味を手がかりに、風俗嬢を殺した男を追う第1章で、〈化粧は薄く、そのくせ持物には金がかかっている。年齢は23、4だろう。美人でもブスでもない。人並みだ。表の風俗ならともかく、裏の風俗にずば抜けた美人はいない〉と、初対面の女をひと目見て、水原は「裏の風俗」だと見抜いている。
第2章で記者を名乗る男に会い、〈切れ長の目は、魅力的だと思う女もいるだろうが、私には信用できない証しだった。こういう目をした男は、どんなときでも嘘をつく。場合によっては、自分自身に対してすら〉と見切り、酔った勢いでキスしてきた男を〈酔うと女が欲しくなる男は、必ず女で墓穴を掘る。この男が利用できる時間は、そう長くはないだろう〉と思っている。
水原が、相手を“見切る”ようすと心理描写は、小気味がいい。