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夜の大連と同じ“匂い”がする――大沢在昌が描く「中国」というリアル

大沢在昌〈魔女〉シリーズの魅力に迫る! #2

2024/04/20

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書

note
『魔女の後悔』(大沢在昌 著)文藝春秋

 4月19日に発売される大沢在昌さんの新刊『魔女の後悔』

 売春島を生き抜いた闇のコンサルタント・水原を描く〈魔女〉シリーズの最新刊です。9年ぶりとなる今作では、ある一人の少女との出会いが水原の運命を変えてゆきます。

 韓国財政界を揺るがす巨額詐欺事件の主犯を父に持つ少女と、水原を結ぶ暗い糸とは――。

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 大沢ハードボイルドの真骨頂、ここにありです。

 発売を記念して、シリーズ2作目である『魔女の盟約』(文春文庫)に収録されている、文庫解説を全文公開します。(全3回の第2回)

◆◆◆

 いよいよ日本社会にも、本格的な銃器犯罪の時代が幕を開けたのか――。

 警視庁幹部たちがこう口をそろえた凶悪事件が起きたのは90年代半ばのことだ。わずか10数分間に2人の高校生を含む3人の女性を射殺するという凶悪事件。八王子スーパーナンペイ事件である。

 発生から14年。時効――当時はまだ時効撤廃の議論が起きる以前だった――の近づいた事件に一つの有力情報が飛び込んできた。それは中国から日本の公安を通じて刑事にもたらされた。

 内容は、「麻薬の密輸に関わったとして中国公安に逮捕され、死刑判決を受けた日本人が、十五年前のナンペイは自分の犯行だとしゃべった」という告白だった。男は、元中国窃盗団の元締めで、司直の手が及ぶ直前に中国に逃れていた指名手配犯だった。側聞した話では、犯人にしか知りえない秘密の暴露も含まれていたという。