4月19日に発売される大沢在昌さんの新刊『魔女の後悔』。
売春島を生き抜いた闇のコンサルタント・水原を描く〈魔女〉シリーズの最新刊です。9年ぶりとなる今作では、ある一人の少女との出会いが水原の運命を変えてゆきます。
韓国財政界を揺るがす巨額詐欺事件の主犯を父に持つ少女と、水原を結ぶ暗い糸とは――。
大沢ハードボイルドの真骨頂、ここにありです。
発売を記念して、シリーズ1作目である『魔女の笑窪』(文春文庫)に収録されている、文庫解説を全文公開します。(全3回の第1回)
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地球温暖化を報じたあとライトアップを「きれい」と褒めるニュース番組、収入にそぐわないブランド品を買うことでリッチ感に酔う人……。
世の中は、矛盾で満ちている。資本主義社会で大勢が「勝ち組」を目指し、幸福を追求した結果、全体不況に陥っているのだ。
本書『魔女の笑窪』の中には、息子が自分以外の女を好きになることが許せず、駆け落ちした息子を連れ戻し、息子の妻と娘を憎み抜く女が出てくる。この母親は、息子を愛しているのか、憎んでいるのか?
人類学者のグレゴリー・ベイトソンは、コミュニケーションのありようが矛盾している状態を「ダブルバインド(二重拘束)」と名づけたが、矛盾が蔓延した「今」の社会を生きるには、人やモノの真贋を、できるだけ正確に見極めなければならないだろう。