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「島」で働いていた過去

 なぜ、水原は、相手を完璧に見抜く力を身につけたのか?

 それは、水原が、対峙する誰よりも、矛盾に満ちた人生を宿命づけられた女だからだ。

〈「きれいな片笑窪だね」
「昔は両方あったの。ひとつは落としたみたい」
「どこで?」
「たぶん地獄」〉

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 第1章で、水原が“風俗”の仕事をしていたことや、「島(地獄島)」の存在がほのめかされる。「島」で働いていた水原は、何千人もの男と寝ることによって、相手を完璧に見抜く力を得たのである。

〈島に連れていかれたときから、私は本名を捨てている。水原という今の名も、島抜けをしてからいくつも使った偽名のひとつに過ぎない。私の会社のすべては、登記上は別人の所有だ〉

 水原は、「島」にいた過去をひた隠し、過去を詮索する人物がいれば、追跡して葬り去る。なぜ、水原が苦界に身を落とすことになったのか、偽名を使って裏社会で生きる、矛盾に満ちた人生を宿命づけられたのかは、少しずつ明らかになっていく。