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文学賞やパーティーで見る大沢さんは……

 しかも彼女は14歳で、実の祖母によって地獄島に娼婦として売られた過去を持つ。男を見抜く目も、何千人もの客を取ったから。必死の思いで島抜けしても、見つかったら追っ手がかかり連れ戻される。整形して別人として暮らす。圧倒的な悲しみや恐怖、孤独をその身に抱えている。そのうえでのタフさ、クールさである。

『魔女の封印 下』(大沢在昌 著)文春文庫

 昨今何かと問題になるセクハラ、女子受験生差別や職場のガラスの天井……。ままならないことが多い現実に、ため息を漏らしながら日々を送っている女たち。それ以上に困難な状況の中、すっくと立つ水原にしびれずにはいられない。

 それにしても大沢在昌は、なぜこんなに女のリアルがわかっているのか。文学賞などのパーティーや取材の現場で見る大沢さんのたたずまいはマッチョだ。『新宿鮫』のイメージもある。よほど女遊びしたのか。いや、キーボードの手が滑った。作家の洞察力と想像力のなせる技だろう。もう一つ、この作家の「優しさ」というキーワードもあるような気がする。

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 大沢さんが日本推理作家協会や文学賞の二次会で、マイクを握った時の司会や挨拶は、場を華やかに明るくする。座持ちがいい。これには持って生まれた素質と、周囲を慮る視線が必要なのではないか。また、インタビュー対応してくれるときには細やかで優しい。こちらの求めていることをすくいとってくれるようなところがある。実は気配りがすごいのではないだろうか。気配りという点では、心性の半分が女なのかもしれない。

「魔女」シリーズは女性のリアリティーだけでなく、そんな大沢さんによる人間観察、社会観察がふんだんに入っている点も魅力だ。