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「お金さえ払えば月にも行ける現代で、いくら札束を積んでも乗れない」日本人が知っておきたい“貨物列車に乗ってみた”

「お金さえ払えば月にも行ける現代で、いくら札束を積んでも乗れない」日本人が知っておきたい“貨物列車に乗ってみた”

『貨物列車で行こう!』#2

2024/04/29

source : ノンフィクション出版

genre : ライフ, 社会,

note

「ガチャンガチャン」意外に静かな発車と響き渡った連結器の音

 我々が乗り込んだのはEH500形式という大型の交直両用電気機関車。「金太郎」という愛称がある。乗務員室は一畳半ほど。進行方向に向かって左側の席に運転士が座り、私は右側の、従来機関助士が座っていた席に座らせてもらう。座席は2つしかないので、堀田さんは運転士の後ろ、山田さんは私の後ろに立つ。何だか申し訳ない。

 発車1分前、貨車のブレーキを解除する。時刻表や信号など色々なものを一つ一つ「ヨシ!」と指差しながら確認していく。

 目の前のポイントが開通し、信号機が青に変わる。夢にまで見た貨物列車が動き出した。意外に静かな発車だが、すぐに後ろから連結器のガチャンガチャンという音と衝撃が座席を通じて伝わってくる。「重い貨車を引っ張っている」という感覚が突き上げてくる。

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突然の鉄道無線が…

 本線に入ると右にカーブしながら上り勾配になる。キーキーと音を立てて車輪とレールが擦れる。

「ここは雨の日は滑りやすいので、レールに滑り止めの砂を撒きながら走るんです」

 と堀田さん。彼も30代前半までは機関車を運転していたのだ。

 鉄道には、信号機と信号機の間に1本の列車しか入ることができない「閉塞」という仕組みがある。運転士が信号機のたびに「第三閉塞、進行!」と指差し喚呼する。それを堀田さんが復唱する。堀田さんの声は低くて伸びがあり、ラジオのアナウンサーにしたくなるような美声だ。

 突然乗務員室内に、特急列車に向けた忘れ物捜索を依頼する鉄道無線のアナウンスが流れる。他にも時々「ブーッ」とブザーが鳴ったり、「チーン」と鐘のような音も鳴ったりする。何の意味があるのか知らないが、目が覚めるような大きな音だ。眠気防止なのかもしれない。

常磐線、藤代~取手間の「交直切替」の標識

 15時30分過ぎ、線路の左側に「交直切替」の標識が現れた。常磐線は、途中の藤代~取手間で交流と直流の切替区間がある。電車は自動的に切り替わるが、機関車は運転士がスイッチで切り替える。