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「お金さえ払えば月にも行ける現代で、いくら札束を積んでも乗れない」日本人が知っておきたい“貨物列車に乗ってみた”

「お金さえ払えば月にも行ける現代で、いくら札束を積んでも乗れない」日本人が知っておきたい“貨物列車に乗ってみた”

『貨物列車で行こう!』#2

2024/04/29

source : ノンフィクション出版

genre : ライフ, 社会,

note

 切替区間の電気が流れていない20メートル弱を、列車は惰性で走る。システムの上では色々と複雑なことが起きているのだろうが、機関車は特段変わったことも感じさせずに直流区間に入った。説明がなければ気付かなかったと思う。

「運転席が、ほんの一瞬、静寂に包まれた」

 列車はだいたい時速90キロで快適に走り続けているが、少し速度を落とすと後ろから

「ガタンガタン」と音を立てて貨車が押してくる。そのたびに「ああ、いま貨物列車に乗っているんだな」と気付かされる。

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 取手駅を過ぎると電車の本数が増えるので、信号機の数も増える。指差し喚呼の回数も増えるので、運転士は忙しい。

 北柏駅手前で待避線に入って停車した。

 土浦駅から隅田川駅までの間で唯一の停車だが、これは後続の特急列車に道を譲るためのもの。旅客列車だと客の乗り降りのついでに駅で待避するが、その必要のない貨物列車は駅間で待避する。これも貨物列車ならではのことで、ただ停まっているだけなのにうれしくなる。

 追走してきた特急「ときわ78号」が本線を猛スピードで抜き去っていった。

 遠ざかる特急列車を真後ろから見送る「金太郎」の運転室が、ほんの一瞬、静寂に包まれた。

「このままあっちに行けたら楽しいだろうな」

 再び発車して本線に戻る。今度は特急の後追いになるので、一気に加速してトップスピードに乗って松戸駅を通過。さすがにホームの人の数が多い。スマホを見ながらホームの端を歩く人が危なっかしく感じられる。ホームの隅で、こちらにカメラを向けている青年がいた。誇らしい気持ちになる。

 小さな子どもが手を振っている姿を何度も見かけた。そのうちの何度かは、堀田さんが手を振り返していた。運転士によっては短く警笛を鳴らして応える人もいるという。そんな返礼があれば、手を振る幼児とてうれしかろう。微笑ましい光景だ。しかし、「運転中に手を振るなんて危険だ」だの、「警笛がうるさい」というクレームが入ることもあるという。世知辛い世の中だ。