物流問題が叫ばれて久しい現代社会で、暮らしを支える貨物列車。しかし、一般の旅客は乗り込むことさえできないこともあってか、その存在はあまり日常で意識されることはない。
約38万平方キロメートルの面積のこの国で、日々各地に物品を送る現場のリアルとは――。貨物専用駅を探訪した長田昭二氏の著書『貨物列車で行こう!』より、一部を抜粋して転載する。
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人知れず日本の物流を支える駅
2018年11月13日火曜日の朝、記者は隅田川駅を訪ねた。
この駅名を聞いて、「ああ、あそこか」とわかる人がどれほどいるだろう。知らないのも無理はない。隅田川駅は貨物専用の駅で、旅客列車の出入りはない。一般市民がこの駅に用事がある可能性は極めて低い。
場所は常磐線の南千住駅の東側。東京ドーム5個分の敷地に16の着発線(編成の整った列車が目的地に向けて出発し、また到着する番線)と、12の荷役線(貨物の積み下ろしを行うための番線)、5面のコンテナホームを有する国内屈指の貨物駅だ。
都内にはもう一つ、品川区八潮に東京貨物ターミナル駅(略称「東京タ」)という大規模貨物駅があり、この2駅が首都圏の貨物鉄道の拠点となっている。「東京タ」が主として関西や九州など西向きの列車を仕立てるのに対して、隅田川駅は北海道や東北、新潟方面に向けた貨物列車の発着駅となっている。旅客駅に例えると、少し前までの東京駅と上野駅のような位置付けだ。
隅田川駅や「東京タ」はJR貨物が運営している貨物駅だ。
JR貨物は、1987年に国鉄から分割されて誕生した鉄道会社。分割民営化の際にはお荷物扱いされ、「安楽死論」まで囁かれた。
鉄道ファン以外にとっては、JR東日本や西日本のように馴染みもないし、普段は存在を意識することもほとんどないだろう。
ところが実際は、アマゾンなどeコマースの隆盛で増え続ける日本の物流を陰で支えてくれている、頼もしい存在なのだ──。
東京駅から6キロ、上野駅からはわずか3キロの“マンションに囲まれた場所”
話を隅田川駅に戻す。
この駅は「開いた左手のひら」のような形をしている。親指のあたりが貨車の検修施設がある貨車区。人差し指が貨物列車の着発線、中指から薬指は荷役線などがあり、小指の先に機関車の検修庫があるようなイメージだ。親指以外の指の先端は行き止まりとなっており、すべての列車は「手首」のほうから出入りすることになる。