「電車ではなく機関車を運転したくてJR貨物に入ったんです。ところが、入社後の適性検査でNGが出た。悔しかったし、いまでも乗務できる人が羨ましい」
現在の日本では、旅客列車の大半が「電車」によって運行されている。電車は床下に電気モーターが組み込んであり、車両自体が動力源を持っている。
一方、貨物列車は、動力車である「機関車」が、動力を持たない「貨車」を引っ張る形態をとる。ブルートレインなどの機関車が牽引する客車列車がほぼ消滅してしまった現在、日本で機関車が引っ張る列車は一部の特別列車を除けば貨物列車しかない。
それだけに高野さんの貨物鉄道への思いは人一倍強い。
「あそこの橋で入換作業を眺めている子どもがいると、つい『貨物列車好きなの?』なんて声をかけちゃうんです。自分がそうだったように、貨物列車を好きな子が一人でも増えてくれたらうれしいじゃないですか」
雪を載せたまま到着する冬場「北海道と新潟の雪の質の違いがわかる」
輸送主任として、貨車の入換作業や信号操作を担当する大野貴幸さんも岩倉高校のOB。子どもの頃、自宅近くに貨物列車を扱う駅があり、その光景を眺めて育ったことが、いまの仕事につながった。先の高野さんの思いを具現化したような人物だ。
入換作業や信号操作は貨物駅の華だ。ポイントを切り替えて、貨車を移動させて、計画通りの編成を組み立てていく作業は、眺めているとパズルのようで面白い。
「作業の前に、組み換える貨車の連結位置や留置している車両の位置を考えて効率的に貨車を並べ替える計画を立てる。これが終わった時は充実した気分に浸れます。実際の作業が思い通りに進んだ時の達成感はひとしおです」
他の駅にはない、隅田川駅ならではの面白さもある。
「ここには北海道や新潟などから、多くの貨物列車がやって来ます。冬場は雪を載せたまま到着しますが、それを払う時に北海道と新潟の雪の質の違いがわかるんです。雪の降らない都会の駅で……」
貨物列車は物資だけでなく、地方の生活の息遣いまでも東京に運んできているのだ。
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発言者・取材協力者の肩書は取材当時のものです。
写真=日本貨物鉄道株式会社、山元茂樹、杉山秀樹、川本悟士、長田昭二