後々知った話なのだが、その時親父はすでに癌で、タマにまで転移しており、手術で取り除いた後だったらしい。
つまり親父は、生涯のラストコンパを“タマなし竿のみ”で臨んでいたのだ。
親父の女好きは、タマではなく心から溢れていたのだ。
親父が5人家族から離脱した原因とは?
そんな親父が5人家族から離脱したのは、俺が小学校3年くらいの時だ。当然、離脱の原因も女絡み。
俺は親父が家族から離脱した日の出来事のことを、「家取り戦争」と呼んでいる。
2000年10月。
どのくらいの期間だったか詳しくは覚えていないのだが、いっとき親父が家に全く帰ってこない期間があった。
ある時、夜7時くらいだっただろうか、親父の車の音が聞こえた。その後“ジャッ、ジャッ”と、駐車場のあたりに敷いてある砂利を踏む音が聞こえてくる。これは、俺の中で親父が帰ってきたサインだった。俺は親父を出迎えるために玄関へと向かい、玄関扉を意気揚々と開けた。だが、そこには……
見知らぬ襟足の長い子供が2人。
と、赤ちゃんを抱え、ダボッとした服を着た、茶髪か金髪かわからない髪のヤンチャそうな30歳前後のねーちゃんが立っていた。
「俺は今日から、こいつらとこの家で住む!」
「……いや、誰よ」
と、ツッコもうとしたその時、そいつらが突然、全員でズカズカとうちに上がり込んでくる。
騒ぎを聞きつけ、我が家の家族が玄関に集まる。家族全員が混乱していると、ヤンチャそうなねーちゃんの後ろから、ゆっくり堂々と、親父が現れた。
そして、親父は開口一番、
「俺は今日から、こいつらとこの家で住む!」
と言うのだ。
親父は俺の知らない間に、このヤンチャそうなねーちゃんと結婚していた。親父は、ヤンチャそうな新妻と、その連れ子と、もしかしたら俺の腹違いのきょうだいかもしれない赤ん坊とで、この家に住む気のようだ……。俺が理解の電車に乗り遅れていると、
「ふざけないで!」
と怒号が聞こえた。