金子 自分みたいな才能は映画会社が欲しがるだろうと思い込んでいるんですよ。自分が大学で作っている映画は深作欣二には負けるけど、テレビで見ているドラマよりも自分のほうがうまいんじゃないかとか、変わらないだろうとどこかで思っているんですね。
プロの俳優を使えばちゃんとできるだろうと思い込んでいるんです。だから、助監督で入った瞬間からなんでこんなことやらなきゃいけないんだろうってずっと思っているわけです。そういう助監督だったんですよ。
だからいろいろ考えると、映研の部室で押井さんと世界の巨匠をこき下ろしていたこととかなり関係があるんじゃないかと。
日活版『高校大パニック』の助監督に
――日活の中でも同じ気分で。
金子 ちゃんと常識はあるんですけど、心の底で、大体監督をバカにしているんですよね。現場ではうまく動けないから、矛盾があるんです。そんな時に1本目が根岸吉太郎監督で、2本目が田中登監督で、3本目が『高校大パニック』。
――まだ3本目だったんですね。
金子 3本目で石井聰亙(現・岳龍)さんが日活に乗り込んでくるという。だけど、それは澤田組なんですよ。澤田幸弘監督と石井監督の共同監督。
――一応そういう名目だったけど、石井さん自身は監督補だったという言い方をされましたけど。
金子 そうですよね。
――演出部としてはどういう対応だったんですか? 監督と呼ぶ相手は誰だったんですか?
金子 澤田さんを監督と言って。
――石井さんは何と呼んでいたんですか?
金子 「石井君」っていう。
――すべてのスタッフがそうだったんですね。
金子 「石井」と呼び捨てにする人もいて。
――ひどいですね。
金子 所内アナウンスというのがあるんですけど、助監督の仕事として、9時になったら「何々組、撮影が始まりますので、関係者の方は第何ステージにお入りください」というのを言わなきゃいけない。
僕は一回、チーフの菅野隆さんに「澤田・石井組って言うんですか?」と聞いたら、「澤田組に決まってるだろ」と怒られた。僕はわざとそういうことを聞くわけですよ。
――一応聞く。それだけでも一番理解者だったということですね。
金子 それで、澤田さんがいなくて石井君だけいて待ちになっている時に「監督いるから回しませんか?」と菅野さんにわざと言ったんです。そうしたら菅野さんに「冗談だろ」と怒られた。
――ということは、やっぱり金子さんも不本意な現場というか、監督で入っている人がなんでこういう扱いをされるんだという思いがあったんですか?
金子 そういう思いもありつつ、僕より1~2歳若いのに監督として来ている石井君に嫉妬もしつつ、でも、仲間意識もありつつという。よくおしゃべりしてましたけどね。