『濡れて打つ』で監督デビュー
――監督デビュー作のロマンポルノ『宇能鴻一郎の濡れて打つ』がアニメの『エースをねらえ!』のパロディというのは、かなり自由な感じがしたんですけど。あれは金子さんのアイデアですか?
金子 その前に、すずきじゅんいちさんの『宇能鴻一郎の濡れて学ぶ』の脚本とチーフ助監督をやったんです。
「溌溂とした岡本かおりには宇能鴻一郎は似合わない」と言うすずきさんと一緒にシナリオ作りをしたんだけど、セックスありのちゃんとした青春モノとしてやろうとしたすずきさんの施行に対して企画部の成田尚哉さんが「これはまったく宇能鴻一郎じゃない」とひっくり返して全否定、僕一人にされてシナリオを書いたんです。
僕は、セックスバイトに全く疑問を持たないキャラクターに岡本かおりをはめて、“わたしは愛の戦士”と言わせてジュリアナみたいにアカフンディスコで踊る、それでホンは通ったけれど、シナリオとしての出来は悪かった。
でも映画になったら、これが会社からは大悪評で…でも、叱られたのはすずきさんで…日活がすごくこだわっていたのは、宇能鴻一郎ものは宇能鴻一郎的じゃないと駄目だと。
ちょっとおバカなキャラクターが「私、何々なんです」といって、性的刺激を受けるとそのまま受け入れてしまうという。
監督はそのことに疑問に感じながらも、僕のシナリオを半ばヤケクソ気味に真正面から堂々と撮ったので、会社はホンのダメさより、企画の古さを立証されてしまい、神経を逆撫でされて怒ったんじゃないか。
すずきさんも、ディスコにハーケンクロイツを出してワルキューレを流し、エロより異様さを演出して、僕が名付けた〝ほとんどビョーキカンパニー〟というイメージを増幅して…。
その半年後に自分が監督として最初に受けた『宇能鴻一郎の濡れて打つ』は、テニス部の女子高生の話だったんですけど、東京スポーツで連載12回目だったんです。それが「私、高校のテニス部員なんです」から始まり、「エレベーターの中でいやらしいことをされてるんです」、っていうのが12回続いて、全然映画になるネタがないんですよ。
――オリジナルでやれと言っているようなものですね。
金子 これどうするの?ということで、脚本の木村智美さんはちょっとしたドラマというか高校生の青春ものを作ったんですけど、これが全く宇能鴻一郎的じゃないと言われて駄目にされて、じゃあ『エースをねらえ!』をパロディにしたら宇能鴻一郎的になるんじゃないかと。
出崎統さんのアニメ『エースをねらえ!』は大好きだったので、これはお蝶とひろみをレズビアンにしてパロディ的にしたら、それこそ宇能鴻一郎的になるだろう、会社に通るだろうと。そういう意味では、自由だとかじゃなくて、枠を突破するために引用してきたということなんですよね。
――会社が望むものの答えとして差し出したということですね。
金子 そうですね。できた時も、会社の重役は『エースをねらえ!』をよく知らないから、「これはなかなかよくできた青春ものじゃないか」という受け取り方だった。それを宇能鴻一郎的にやっているから、会社的にも評価が高かったんです。
ただ、それを作って自分で見終わった後に、「なんだ、こんなものをやるために6年も助監督をしてきたのか」とダイアリーに書いているんですけど、こんなのだったら8ミリを作っていた時と同じじゃないかと思ったんです。
だから、やっぱり自分でカメラを回して撮ることのほうが、現場で叩き上げられることよりも作家に近いんじゃないかな。