本木 あれ? 私があなたの叔父さんのふりをして許可をもらい、スイスの寄宿舎に会いに行ったのは?
内田 この食事のしばらく後のことです。
本木 そういう順番も全部忘れている(笑)。
本木家との距離感
本木 私が婿養子になるということについては、裕也さん、樹木さん、私の両親の4人だけで、ホテルオークラで会ってちゃんと話をしたんですよ。うちの両親は「寂しいけれども、お任せします」と言ったらしい。
内田 私はお義母さんに嫌われてはいないなという安心感は最初からあった。ただ、そこからもっと知ってもらい近づきたかったんだけど、本木さんに婿に入ってもらったという負い目があって、結婚した後のほうが変な距離を感じてしまったのね。
長男が生まれたときに、それを一番如実に感じたの。お義母さんの孫なのに、「抱っこしていいですか」とか「これあげてもいいかな」とか遠慮するし、「うちの孫じゃないから」という表現をされるのね。私がお皿を洗ったりすると、「悪いね、お客さんにやってもらっちゃって」なんて言われてしまう。なんだか寂しかった。
本木 そうね。なにしろ、あなたは大女優の娘で、自分たちとは別世界の育てられ方をしているのであって、まさか樹木さんは倹約家で、あなたが制服さえも自分で買えと言われるような育ち方をしているとは夢にも思ってないわけよ。だから母は、「也哉ちゃんにはわからないと思うけど」って。
内田 そうそう、よくそう言っていたね。
婿養子に入ってもらってよかったこと
本木 外孫だの内孫だのといってぎくしゃくしたけど、それでもその孫を通じて徐々に関係性はうまく緩和されていったね。
内田 結婚するまでは、家に何年も帰っていなかったでしょう。母に「本木さん、お正月ぐらい帰ったら」と言われるぐらい疎遠だった。
結婚した当初は、私が「ちゃんと節目節目には桶川に行こうよ」と言って帰るようになったんだけど、いまや率先して顔を見せに帰る。それが私もうれしくて、お義父さんとお義母さんには寂しい思いをさせてしまったけど、ひとつだけよかったことがあるとしたら、婿養子に入ってもらったからこそ、本木さんがお義父さんとお義母さんをより大事にするようになったこと。それは傍から見ていてすごくうれしかった。