心の底から現場という戦場を楽しむ姿
奥野 ご自身が立ち会えない撮影も、ずっと小さなモニタで、リアルタイムでチェックしてましたよね。
洞口 そうそう。撮影中、別班でロケに行っているチームや、違うセットでやっているチームもあるんですけど、それも真田さんは常にチェックしているんですよ。
奥野 いないときも全部見られている(笑)。日本でやったアフレコまでオンラインで参加して、演出してくださいましたもん。
洞口 真田さんはロサンゼルスにいて、時差もあるのに「こっちは暖かいよ」なんて言いながら、「もう少し息遣いを頂けますか」とか、役者ならではの的確な指示があるんですよ。
奥野 いつ休んでいるんだろう?って思うほど超人でしたよね。しかも子供のように「いや~楽しいんだよね~」っておっしゃってて(笑)。
洞口 そうそう! 撮影も終盤に差し掛かったときに「終わるのが寂しい」っておっしゃっていて。本当にこの人は心の底から現場という戦場を楽しんでいらっしゃるんだなって。
一方で、人間らしいところもあるんですよ。日本の現場だとミステイクをすると、そのシーンの最初から撮り直しになる事が多々あるけど、向こうは、自分のテンポで中断したところから仕切り直していい。
事前に「それが普通だから大丈夫だよ」と言われても、やっぱりこちらは最初ドキドキするわけですよ。ところが真田さんも、長台詞でミスをしてやり直していて(笑)。それを見て「あ、本当にいいんだ」って、こちらも安心して臨むことができました。
撮影が進むほど「何かを賭けている感じ」がした
奥野 完璧な部分ばかりですけど、情けなく見せて笑わせてくれるところもあったり。すごく人間味のある方ですよね。
それと、これは僕の印象なのですが、常にチャレンジをしている方だなと思いました。実際、撮影の終盤でお話をしていたら、「これが終わったら、次に何やろうかってことを考えちゃうんだろうな」とおっしゃっていたのがすごく印象に残っていて。
洞口 それはわかるかも。撮影が進むほど、(ロケ地だったカナダの)あのブリティッシュコロンビアの大自然の中、何かを賭けている感じがして。そうすると私たちも、「もっと頑張れるんじゃないか」と。今回の撮影は真田さんが「ここに光があるよ」と導いてくれる感じでしたよね。
私も色々な時代劇に出演してきましたけど、あそこまで先導してくださる先輩というのは稀有な存在だと思います。
自分の役だけでなく、全てを把握していらっしゃるんだから、1話ぐらい真田さんが岡本喜八監督ばりにドッカン!ドッカン!と派手にお撮りになればいいのにと思わず妄想しちゃったり。
私はそのうち、真田さんは日本のクリント・イーストウッドみたいになるんじゃないかなとこっそり睨んでいます(笑)。
どうぐち よりこ 東京都出身。85年『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(黒沢清監督)にて主演女優デビュー。同監督、伊丹十三監督作品、久世光彦演出・向田邦子原作ドラマ作品などに出演。
92年「愛という名のもとに」(フジテレビ系)で幅広い人気を獲得。マーティン・スコセッシ監督『沈黙』。主演作『終点は海』で初の主演女優賞を受賞。近年は執筆活動も活発に展開。著書に『子宮会議』。現在『週刊文春』にて「シネマチャート」を担当中。
おくの えいた 1986年北海道出身。日本大学芸術学部映画学科に在学中からインディペンデント映画に出演。09年『SR サイタマノラッパー』に出演し、シリーズ3作目『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12年)で映画初主演。
近作に映画『スパイの妻』(20年)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(22年)、『碁盤斬り』(24年5月公開)、ドラマNHK連続テレビ小説「エール」(20年)、TBS「最愛」(21年)など。
洞口依子/ヘアメイク=増田加奈、衣裳:Edwina Hörl(エドウィナホール)
奥野瑛太/ヘアメイク=光野ひとみ、スタイリスト=清水奈緒美