「手にぬるっとした感触があって、見ると泥の混じった肉なんです」
脱落したエンジンの先には、地獄のような光景が待っていた。
「エンジンがあった谷底から、また藪をかき分けるように登っていきました。足元を見ないと歩けないような急坂で、木や草を掴みながら上っていくんですが、ある時草を掴んだら手にぬるっとした感触があって、手のひらを見ると泥の混じった肉なんです。だけどその瞬間は感覚が麻痺していて、臭いをかいで生臭いなと思うくらいで、手を簡単に拭くとすぐにまた歩きはじめました」
さらに進んでいくと、突然視界が開けた。墜落した機体が周囲の木々をなぎ払い、航空燃料が燃えて焼き尽くしたことで、墜落現場付近が切り開かれていたのだ。
「まだいたるところから炎や煙が上がっていて、鼻をつく強烈な異臭が漂っていました。ケロシン(航空燃料)の燃える臭いと、髪の毛などのたんぱく質が燻る臭いが混ざっていたんだと思います。大きな字でJALとペイントされた主翼も落ちていて、その周辺には手足など遺体の一部や細かい肉片、JALのマークがついた酸素マスクや乗客の荷物などが散乱していました。お札がぎっしり入った財布が落ちていて『免許証が入ってれば身元がわかるかもな』とやけに冷静に思ったことを覚えています」
現場にはすでに30人ほどの自衛隊員や消防隊員、警察官の姿があり、遺体を毛布に包み、ビニール袋を持ってバラバラになった部分遺体を拾い集め、炎にスコップで土をかけて火を消していた。誰もが与えられた仕事をただ黙々とこなしていた。
「周囲の警察官が忙しく働いているなか、嗚咽を漏らしながら呆然と仲間の作業を眺めて立ち尽くしている警察官がぽつんぽつん立っていました。でも『仕事しろ』と注意する人は誰もいませんでした。あの状況で動けなくなるのは普通のことですからね……」
事故現場で作業をした人のなかには、PTSDを発症したり、二度と飛行機に乗れなくなった人も多かったという。