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世界中が目を見張った台湾半導体業界の底力

 大地震とその後の停電で、超精密加工を行う半導体工場が激しく損傷したため、台湾の操業再開はいつになるかと各国が憂慮した。日本のあるメディアは「操業再開まで1カ月はかかるだろう」と報じた。

 だからこそ、台湾の工場が発揮した緊急時の対処力に世界中が目を見張った。

 地震発生後、多くのエンジニアが取るものもとりあえず深夜の工場に駆けつけて状況を調べ、調達部門の責任者は石英炉心管の多くが破損したはずだと見抜いて、海外のサプライヤーに特急の発送を依頼した。こうして、発生から約2週間でほぼすべての工場が生産を再開させて1カ月後にはフル稼働させ、一部メーカーは年末の繁忙期に対応できるほど回復した。雑誌「Far Eastern Economic Review(現在休刊中)」は当時、台湾の半導体工場の迅速な対応力によって、損失が最小に抑えられたと報じている。あの大地震で、台湾半導体業界の底力が確かに証明された。

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 当時は東アジア情勢も安定的で、米中対立や半導体戦争も起きる前だったため、台湾が迅速な操業再開を果たしたあと、台湾の安全問題について深く考える人は出なかった。

 台湾が世界のファウンドリー生産能力の7割を占め、TSMCが先端プロセスの9割を占めている今、921のような大地震がもしもう一度起きたとしたら、「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」に「(なぜ台湾が重要なのか)」といったカバーストーリーが掲載されるはずだ。台湾で地震が発生したら、世界経済がストップしてしまうからだ。

人命と工場を守った台湾企業の危機管理

 台湾半導体産業はなぜ、あの未曽有の大災害のなかから迅速に復興できたのか。台湾のエンジニアたちはあのとき、何をしていたのか。そしてわずか2週間でいかにして操業を再開させ、顧客の繁忙期に間に合わせたのだろうか。

 そこには3つの理由があったと考えられる。1つ目は、台湾企業の危機管理がしっかりとできていたことだ。

 どの会社も日ごろから、火災や停電に備えて緊急時対応訓練を行っていたため、地震が実際に起きたときに、各社の生産ラインにいた従業員は速やかに避難できた。