速やかな復興力は「サプライチェーンのレジリエンス」
日本の半導体産業も1995年の阪神淡路大震災では、相当のダメージを負った。京阪神はパナソニックや三菱電機、シャープといった電機メーカー各社のお膝元だったため、付近にはいくつもの半導体工場があった。当時、この地域で世界のウエハー生産量の約1割を生産しており、日本が世界の生産額の2割近くを占めていたLCDパネルも、神戸とその周辺で製造されていた。主なメーカーはDTI[かつて東芝と日本IBMが共同出資して設立した液晶表示装置製造会社。姫路に生産ラインがあった]とホシデンで、そこにシャープ天理工場を合わせると国内生産の3割にも達していた。
台湾の主要産業は受託製造で、委託元はすべて日本や欧米のトップメーカーのため、世界シェアも当然大きくなる。そのため、921大地震が台湾と世界のハイテク産業に与えた衝撃は、阪神淡路大震災のときをはるかに超えていた。加えて日本は国土が広いため、震源地から遠く離れた工場は地震の影響を受けずに済んだ。しかし台湾は狭い地域に工場が密集しているため、より深刻なダメージを負った。
振り返ってみると、この地震で台湾が発揮した速やかな復興力は、「サプライチェーンのレジリエンス(逆境から立ち直る力)」と呼ばれるものではなかっただろうか。当時の市場は、海外メーカーが委託先を台湾から別の国や地域に移すと予測していたが、実際にはそうはならなかった。それも台湾に堅固な製造基盤があり、臨機応変な対応力が備わっていたからだろう。
本当に恐ろしいのは天災より人災
20年後の今、台湾の半導体技術の先進性や世界シェア、クリティカルマスによって生み出される優位性や影響力は、当時よりもはるかに大きくなっている。ここで1つの疑問を投げかけてみたい。
「今、台湾で921と同レベルの地震が起きたら、どうなるだろう」
もしそれが現実になったとしても、このチップアイランドは速やかな復興を遂げると私は信じている。復興に必要な力はすべて、台湾企業が数々の戦いのなかから手に入れているからだ。
ところで、実は天災は怖くない。本当に恐ろしいのは人災だ。もし台湾有事が起きたら、台湾海峡の上空をミサイルが飛び交い、間違って工場に落ちる可能性がある。もしそうなったとしたら……。台湾企業が今よりも力を付けて、もっとレジリエンスを養っていたとしても、工場を救うことはできないかもしれない。