今回はアニメーション映画『FUTURE WAR 198X年』を取り上げる。

 東西冷戦が最後の激化を見せていた一九八二年に製作された、近未来戦争映画だ。

 その内容が「戦争美化」と捉えられたために左派系団体などから猛烈な抗議を受け、ボイコット運動が巻き起こったことで知られている。そのため、現在でも本作はセンセーショナルな作品という扱われ方だ。だが実は、かなりリアルで硬派な反戦映画として、見どころは多かったりする。

ADVERTISEMENT

1982年(124分)/東映/動画配信サービスで視聴可能

 悲劇の物語は、米軍の最新鋭兵器の開発に成功したゲイン博士をソ連が拉致したことで始まる。機密漏洩を恐れたアメリカは博士を乗せたソ連の潜水艦を太平洋沖で撃沈。それでも穏健派のソ連書記長の尽力により、最悪の事態は避けることができた。

 だがそのすぐ後、今度はソ連の最新鋭戦闘機が西ドイツに亡命したことで、状況は大きく変わっていく。このタイミングで書記長が病に倒れ、強硬派の幹部が主導権を握ってしまうのだ。そして、ソ連による攻撃をキッカケにドイツから東欧にかけて、NATOとワルシャワ条約機構との間で戦線が広がっていく。

 ここから、世界は地滑り的に破滅へと向かうのだが、その描写が恐ろしい。それもそのはず。脚本は高田宏治。本作の少し前に映画『復活の日』で細菌兵器と核により人類が死滅していく様を容赦なく描き切った高田は、今度は破滅的な世界大戦が起きる過程を冷徹なまでにリアルなシミュレーションで展開させる。

 前線の軍人の暴走による戦術核の使用と中東の石油をめぐる主導権争いにより、戦線は世界各国へと拡大し、東西両陣営は激しい戦闘を繰り広げていった。そして、最悪の事態が起きてしまう。沈みゆくソ連潜水艦から、米国の各都市に戦略核が発射されたのだ。米軍もまた、その報復に核を使用する――。

 中盤から終盤にかけては、怒濤のカタストロフ。それは、戦禍により命を落とす人々の悲惨な姿ではなく、その状況を招いた政府や軍部の首脳たちの姿を通して描かれる。その視点も、当時からすると反戦メッセージの欠如と捉えられたのかもしれない。

 たしかに、日本の戦争映画にありがちな、お涙頂戴の情話に走った分かりやすい反戦メッセージは、本作にない。だが、粛々と出来事を積み重ねることで、かえって戦争の恐ろしさを伝えていることも確かだ。特に、平和や秩序はギリギリの理性で保たれているに過ぎないと思い知らされている今の世界状況ならばなおのこと、当時のレッテルから離れて本作の価値を見出せるのではと思ったりもする。