1974年(91分)/東映/3080円(税込)

 今回は『激突!殺人拳』を取り上げる。

 一九七〇年代前半、ブルース・リーが巻き起こした香港のクンフー映画の大ブームに、東映が便乗して生み出した「カラテ映画」の企画である。だからといって、いい加減な作品では全くない。むしろ、作品としての見応えは一連の香港映画はどれ一つとして及ばないものがあると思える。

 それもそのはず。監督・小沢茂弘―脚本・高田宏治という、幾多の時代劇や任侠映画で重厚なアクションを創出してきたコンビが手掛けているのだ。また、主演の千葉真一も、ブルース・リー同様にアクロバティックな格闘アクションを得意としてきたが、当人はスピードと手数で勝負する香港流のスタイルを好ましく思っていなかった。そのため、一撃の重みを拳に込めて格闘を表現している。

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 結果として、クンフー映画の軽妙さとは明らかに一線を画す、痛みが観客にも伝わるような生々しくも重々しいアクションが映し出されていた。

 重いのは、アクションだけではない。ストーリー展開も同様だ。千葉真一扮する主人公が空手の腕前を駆使して悪を倒す、東映のヒーロー映画らしい勧善懲悪をイメージする方もいるかもしれない。が、実はその正反対なのだ。

 千葉が演じる剣琢磨(つるぎたくま)は、裏社会から非合法なミッションを受けるエージェント。冒頭から、死刑執行寸前の囚人・志堅原(しけんばる/石橋雅史)を脱獄させてのける。これだけならダーティ・ヒーローとして成り立つところだが、そうではないのが、本作の凄いところ。

 剣に依頼をした志堅原の弟(千葉治郎)と妹(志穂美悦子)が報酬を払えないと分かると、剣は二人をボコボコに。そのために弟は命を落とし、剣は妹を売り飛ばしてしまう。徹底して非情な、悪漢なのだ。悪役のヤクザ(渡辺文雄)に「本当にひでえ野郎だな」「あんまりアコギなことはするなよ」と釘を刺されるほど。

 それでも、あくまでプロフェッショナルとしての筋を通す剣のキャラクターと、颯爽とした千葉の姿が実にカッコよく、酷いことばかりしているのにヒロイックに見えてきてしまうから、驚かされる。ナイフ使いの汐路章、青龍刀の山本麟一、仕込み杖の天津敏といった小沢組でお馴染みの悪役陣の演じる刺客たちとの格闘アクションもド迫力だ。

 ラストは、志堅原兄妹と剣との決闘。船上で繰り広げられる激戦は圧巻だ。吹きすさぶ嵐、剣を倒すために我が身を捨ててかかる妹、そして両雄が傷つき果てて迎える終末――。演出は緊迫感に貫かれ、脚本はアイデアであふれ、演技は激しい。全てが完璧な格闘シーンに仕上がっていた。