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「もうガックリしちゃいましたよ」亡き父を懲らしめるため“恐山のイタコ”の力を借りた男性が最後は笑って帰ったワケ

『苦しくて切ないすべての人たちへ』より #4

2024/05/14

genre : ニュース, 社会

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「で、ね、私、ある日急に思いついたんです。そうだ、青森の恐山にはイタコがいると聞いたことがある。一度、親父を呼んでもらって、とっちめてやろう」

 亡き父を懲らしめるためイタコの力を借りようとした男性……ところが、事態は思わぬ方向に。恐山菩提寺で住職代理を務める南直哉さんの最新刊『苦しくて切ないすべての人たちへ』(新潮社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

著者の南直哉さん ©新潮社

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イタコに亡き父を降霊してもらおうと思ったら…

 父親の死から数年後、彼はこの計画を実行に移す。社命で青森に出張した帰り、恐山に立ち寄ったのだ。

「何て言うんですか、七月のお祭りみたいな時で、大勢人がいて、イタコさんの小屋の前は大行列で、私は何時間も待ちましたよ」

 この忍耐の結果、彼はイタコさんの前にでて、父親の「口寄せ」を依頼したのだ。

「ずいぶんお年を召したイタコさんでね、父の名前と命日を訊かれました」

「どうでした?」

「イタコさんは、何というか、お経か呪文のような唱え言をしつつ、一瞬、トランス状態みたいになったかと思うと、いきなり閉じていた白濁した目を見開いて、言ったんです。それがですね……」

 彼は聊(いささ)か芝居がかったタメを作った。

「それが……?」

「それが、イタコさんがこう言ったんです。『アンタの父親はここにいないよ。どこか他所(よそ)に行ってるよ』、と」