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左足の傷口に虫がびっしりと…

 日没間際になって、比較的平坦な場所がたまたま見つかったので、そこに体を横たえた。ザックカバーを体に被せ、眠れないとわかっていながら目を閉じ、朝を待った。

 13日も、疲れた体を引きずるようにして、早朝からひたすら斜面を登り続けた。足を動かすのが辛かったが、とにかく死に物狂いで登っていった。

 えずきは依然として続いており、喉の渇きも耐え難かった。ヘリの音が何度か聞こえ、そのたびに大声で叫んだが、もちろん声は届かない。

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 夜は寒さと不安でほとんど眠れていないため、昼間、休憩を取るたびに睡魔が襲ってきた。

 30分ほど寝入ってしまって目が覚め、「わ、寝ちゃったな。時間がもったいなかったな」と思ってまた行動再開することを繰り返した。

 左足の脛の傷の程度は確認していなかったが、サポートタイツ越しに傷口から体液が滲み出ていることはわかった。休憩中の眠りから覚めると、その箇所に小さなハエのような虫がびっしりとたかっていた。それが気持ち悪くて追い払うのだが、すぐにまた寄ってきた。夜になると虫はいなくなったが、翌日以降も日中になるとたかってきたので、「助かっても左足が使えなくなっちゃうんじゃないか」と心配になった。

 夕方の5時ごろ、古びた道路標識とガードレールが現われて、林道に飛び出した。林道といっても半ば土に埋もれて木々が生えているので、ちょっと見ただけでは林道だと気がつかないが、久々に目にする人工物に、「わ、これで助かった。よかった」と嬉しさが込み上げてきた。

 林道の右方向は土砂崩れによって埋もれていたため、左方向に進むしかなく、そのまま林道を左にたどっていった。平坦な道を歩くのも久々だった。

 しばらく行ったところに、湧き水が流れていた。喉の渇きが限界に達していたので、無我夢中で飲んだ。ようやく人心地がついたときには、ほぼ真っ暗になっていた。この時点で行動を打ち切り、ここで一夜を過ごすことにした。

 14日も朝5時半ごろから行動を開始し、林道をたどっていった。しかし、土砂崩れや崩壊によって寸断されている箇所が次々と現われ、そのたびに山側の斜面を大きく迂回して越えていった。

 斜面の登り下りを幾度となく繰り返していたとき、上のほうにコテージのような建物が見えた。「よかったぁ~。助かった!」と喜び、そこまで行こうとしたが、いつの間にか建物は消えていた。「せっかくここまで登ったのに……」と落胆してぼんやり遠くを眺めていたら、今度はガードレールが見えた。「あれは間違いなくガードレールだよな」と思いながらそちらのほうへ行ってみたら、やはりなにもない。

「このときから完全におかしくなったと思った」と、横田は言う。