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クレール・ドゥニ もちろん振り付けをしています。ただ、当初こちらが考えていた以上に、実際の訓練に近い動きになっていると思います。部隊のメンバーを演じる俳優たちのなかには、ひとり実際に外国人部隊に参加した経験のある人がいました。また振付師でこの映画の出演者でもあったベルナルド・モンテは、父親が外国人部隊の兵士だったそうです。

 私たちは撮影を始める前に、パリの体育館で2カ月間、俳優たちを集め振付師の指導のもとで練習とリハーサルを重ねました。練習の最中、音楽は一切かけず、どんな音楽を使うかも伝えなかった。そして実際にジブチでの撮影が始まると、私はオペラ版『ビリー・バッド』で使われていた〈水兵の歌〉をスピーカーで流したのです。砂漠の凄まじい暑さのなかで、俳優たちは自然と体の動きを音楽に合わせていくことになりました。

© LA SEPT ARTE – TANAIS COM – SM FILMS – 1998

生きているといろんな偶然の出会いがある

――原案となったメルヴィルの小説『ビリー・バッド』を読むと、映画との印象は異なります。上官の嫉妬心によって若く美しい兵士が罠に嵌る物語は同じですが、小説にあった、軍艦への強制徴用をめぐる問題や、水兵たちの反乱をめぐる陰謀といった要素は映画では省かれ、より直接的に男たちの感情的なドラマとして描いているように思います。

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クレール・ドゥニ メルヴィルの『ビリー・バッド』はたしかにこの映画のインスピレーションの源になっていますが、決して小説をそのまま脚色したわけではありません。『ビリー・バッド』は18世紀末、ナポレオン時代のイギリスの軍艦を舞台にした話であり、今言ったような歴史的な背景や陰謀がなければ、若い水兵ビリー・バッドを罪に陥れることができなかった。映画では舞台も時代もまったく違いますから、こうした陰謀は必要なかったのです。

© LA SEPT ARTE – TANAIS COM – SM FILMS – 1998

 ただ、小説からそのまま引用した箇所もあります。部隊長のフォレスティエが新兵のサンタンを気に入り、両親のことを尋ねると、サンタンは自分には母も父もいない、赤ん坊のときに階段の踊り場で発見されたのだと答える。するとフォレスティエは驚き、哀れみを込めながら、「でもいい発見だった」と答える。それはメルヴィルの小説に出てくる、艦長とビリー・バッドの会話とほぼ同じやりとりです。他にも、小説をもとにした場面はいくつかありますが、決してそのまま映画化したわけではありません。タイトルも『ビリー・バッド』ではなく『美しき仕事』ですしね。