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小学生のときに役者を意識した

中尾 最初に役者を意識したのは小学生のときです。地元の木更津に長谷川一夫さんが映画のロケにいらしてて、僕は学校を休んで、ずっと見学してたんです。あるとき、長谷川さんが手鏡で眉を描いてるときに後ろにすっと行ったら手鏡に僕が映ったんですね。長谷川さんが「うん?」という顔になったとき、「おじさん、俺も俳優さんになりたいんだけど」と言ったの。

阿川 長谷川さんに直接!?

中尾 ええ。そうしたら「学校出てからいらっしゃい」と。当時の僕は「ああ、大学まで行けばいいのか」と思ったんですね。そう考えていた矢先、当時ぺんてるってくれよんが発売されて、絵を描くのが好きだった僕は、ぺんてると文部省が一緒に開催した絵画コンクールに応募したんです。

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阿川 どんな絵を描かれたんですか?

中尾 テーマが「海」だったので、木更津の家の前の海に打ち上げられた腐った船一艘だけを描いたんです。それが文部大臣賞を受賞しまして。さらに翌年は「花」がテーマだったんだけど、俺が描くより、本物の花のほうが美しいと思って、好きなガーベラを一輪買ってきて、そこに絵の具をつけて紙にペタペタおしたの。

阿川 あ、生のガーベラの花びらを切り絵のように貼りつけて?

「塩と砂糖を描きわけろって課題が出たんだけど……」

中尾 そう。その作品も賞をもらったもんだから、「俺って上手いのかも」なんて思って(笑)、絵描きを目指すことになるんです。大学までは役者のことは忘れてましたね。

阿川 それが、どうして大学生になって役者のことを思い出すんですか?

中尾 大学に入って半年後、教科書で見たフランスの絵を観に行こうと思い立って、フランスに留学するんですが、そこで自分に絵は向いてないなと痛感したんです。試験で、白い皿2つにそれぞれ乗った、塩と砂糖を描きわけろって課題が出たんだけど……。

阿川 へぇ~! 面白い!

中尾 それが、描いてる側からしたらとてつもなく難しい。後で分かったのは、粒子をどう描くかじゃなくて、こっちは甘くて、あっちは塩辛いんだと思ったときの筆の動きで描き分けなきゃいけなかった。それは役者になってから気付きました。

阿川 描く人間の気持ちが絵に表れるんですか!?