『まじめにエイリアンの姿を想像してみた』(アリク・カーシェンバウム 著/穴水 由紀子 訳)柏書房

 多くの読者にとって、「エイリアン」といえば、かつて1979年に上映され、世界中で大人気を博したシガニー・ウィーバー主演のSFホラー映画〈エイリアン〉がすぐさま思い出されるだろう。宇宙船内に侵入した狂暴な「エイリアン」の俊敏な動きと高度な知能は観る者に悪夢のごとき強烈な印象を刻みつけた。

 他方、〈エイリアン〉に続いて1982年に封切られたスティーヴン・スピルバーグ監督のSF映画〈E.T.〉に登場する「宇宙人(地球外生命体)」は、少年と友情を交わす、まるで人間のようなキャラクターとして描かれている。〈エイリアン〉と〈E.T.〉では、同じ地球外生命体であっても、姿かたちや行動などの点で大きなちがいがある。

 このような“異星人”たちはほんとうに実在するのだろうか。本書は、エイリアンの形態・運動・知能・言語・社会性・コミュニケーション能力など“生きもの”として彼らがもっている特徴の数々は、たとえ誰もまだ見たことがなくても、現代生物学の知識を踏まえればかなりのところまで推測できると「まじめに」主張する。

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 著者の立論のよりどころは、普遍原理としての生物進化学の理論、とくに自然選択(自然淘汰)の学説である。生命を進化させる基本メカニズムとしての自然選択は、これまでの進化生物学が理論上でも、フィールドでも、研究成果を積み重ねている。それを活用しない手はない。地球外生命体がそれぞれの星でもしも進化してきたとするならば、その原理は自然選択しかないということだ。物理法則があらゆる星で共通するように、自然選択もまた星をまたいで共通に作用するメカニズムとみなされている。

 他の星のエイリアンについて知ろうとするならば、まずは地球上の生物について知ることが必要だ。したがって、本書の大部分は地球での生物進化を解説する内容となっている。しかし、自然選択による生物進化のほかにもうひとつのキーワードを著者は示す。それは、同じ機能を実現するために遠縁の生物が類似する解決策を進化させる現象すなわち「収斂(しゅうれん)進化」である。たとえば飛行能力のある鳥とコウモリは翼の構造が収斂進化した有名な例である。

 かつて古生物学者サイモン・コンウェイ=モリスは著書『進化の運命:孤独な宇宙の必然としての人間』(遠藤一佳・更科功訳、2010年、講談社)のなかで、宇宙のなかで収斂進化が生み出した最終産物が人間にほかならないと述べた。本書の著者は、コンウェイ=モリスの説をさらに一般化して、他の星での収斂進化がそれぞれ異なるエイリアンたちを生み出しているという大胆な仮説を提唱している。人間は孤独ではない。

Arik Kershenbaum/動物学者。ケンブリッジ大学ガートン・カレッジ研究員。オオカミの遠吠え、イルカのホイッスル、テナガザルの鳴き声を解読するなど、動物のコミュニケーションをフィールドワークで研究。近刊に『Why Animals Talk』。
 

みなかのぶひろ/1958年、京都市生まれ。人間環境大学総合環境学部教授。著書に『読む・打つ・書く』『系統体系学の世界』等。