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 ただし、ESDにも注意点がある。まず、食道の壁は2~3ミリ程度と胃などに比べて薄いため、治療中に穴が開く合併症のリスクがある。また、広範囲に粘膜を剥離した場合は、治療後に狭窄(きょうさく)を起こして、食べ物が通りにくくなる後遺症が起こることもある。なので、食道がんのESDを受ける場合には、治療経験が豊富で、合併症や後遺症に適切に対応してくれる内視鏡治療医にかかるべきだ。

 この内視鏡治療が受けられるのは原則的に、がんが粘膜にとどまっている場合に限られる。早期がんでも粘膜より深く潜り込んでいる場合、また、進行がんでも取り切れると判断された場合には、根治をめざした手術が検討される。

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 できた場所にもよるが、食道がんはかなり大きな手術になることを覚悟しなければならない。胃や大腸のように、お腹を開ければすぐに出てくる臓器とは違うからだ。

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 食道は左右を肺に挟まれている。さらに、表側には気管、心臓などがあり、裏側には大動脈や背骨が通っている。つまり、胸のかなり奥深いところを通っているのだ。それゆえ、食道を全摘するには、胸部、頸部(首)、腹部の3ヵ所を切開しなければならない。

「まるで改造人間の手術だ」

 まずは胸部の手術だ。右の脇の下あたりの肋間を切開し、肺をよけながら食道に到達する。そして、周囲の組織から引きはがして、食道を取り出せるように処置すると同時に、転移の可能性のあるリンパ節も切除する。ここまでが手術の前半戦だ。

 次に、頸部と腹部の手術に取りかかる。首側で切り離した食道を、腹部の方から引きずり出して、食道を切除する。それから、そのままでは食べ物の通り道がなくなるので、代用食道を作り直す。多いのが、胃を細長い管状に形成して、首まで吊り上げる方法だ。他に、小腸や大腸を代用食道として移植する方法もある。

 想像しただけで、大がかりな手術であることが理解できるのではないだろうか。実際、筆者も様々ながん手術を見学したが、食道がんは「まるで改造人間の手術だ」と思った。

 だからこそ、食道がんの手術を受けるならば、妥協せず、実績と実力を兼ね備えた執刀医を選んでほしい。前述した通り、食道がんは他のがんに比べて患者が多いほうではない。それゆえ、年に数件、十数件しか食道がん手術をしていない病院も少なくない。それで果たして質の高い手術ができるのか、筆者は疑問に思っている。

 それに、大がかりな手術になるだけに、術後の合併症のリスクも覚悟しておく必要がある。代表的な合併症が、首側でつなげた部分がうまくつながらない「縫合不全」、痰を出す力がないために起こる「術後肺炎」、さらに声が出しにくくなりかすれる「反回神経麻痺」などだ。