数あるがんの手術の中でも、食道がんほど大きなものはない。胸部、頸部、腹部を切開する必要があるうえ、胃の一部などを使って代用の食道を再建する必要もある。だからこそ、食道がん手術を受ける外科医や施設選びに妥協は禁物だ。

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 食道がんは、がんの中では多いほうの病気ではない。国立がん研究センターの発表によると、2016年の食道がんの罹患数は2万2800人、死亡数は1万1200人と予測されている。これは、死亡数第1位の肺がんと比べると、約7分の1の数字だ。

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 ただし、どんな人が食道がんになりやすいかわかっている。飲酒者と喫煙者だ。長期間にわたる住民観察研究(多目的コホート研究)で、お酒を飲む量が多いほど、またタバコを吸う本数が多いほど、食道がんになりやすいという結果が出ている。

 とくに要注意なのが、お酒を飲むと顔が赤くなる人だ。この体質の人がタバコを吸うと、そうでない人に比べて、食道がんリスクが3.4倍も高くなることがわかっている。なので、お酒が苦手なのに接待が多い営業職などの人は、できるだけお酒を控えて、タバコもやめたほうがいい。

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超早期なら内視鏡治療も可能

 それだけでなく、食道がんになりやすい人は、頭頸部がん(口腔がんや咽頭がんなど)にもなりやすいことがわかっている。口からのど、食道にかけては、お酒やタバコの影響を受けやすい「扁平上皮」という共通の組織に覆われているからだ。また、粘膜への刺激が強い熱いものや辛いものもがんのリスクとなる。

 なので、心当たりのある人は、頭頸部がんや食道がんに要注意だ。とくに、食事のときに胸のあたりで引っかかりを感じる人や、しみたり痛んだりする人は、早めに内視鏡検査を受けたほうがいい。もし検査によって、食道がんを粘膜に留まる超早期(0期)の段階で見つけることができれば、食道を残したまま内視鏡だけで治療できる可能性があるからだ。

 近年、先端から小さな電気メスを出して、それによって粘膜をはぎ取る「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」という方法が普及した。この治療は主に、消化器内科に所属する内視鏡専門医が行っている。

 後述するように、食道がんの手術は、とても大がかりな手術となる。また、食道を切除すると、ダンピング症候群や食べ物の逆流といった後遺症が起こることもある。それだけに、食道を残せる内視鏡治療には大きなメリットがある。