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「そんなにフィルムが出てきたら、誰がどう見てもスパイのバッグですよ」

──イランでスパイ容疑。

佐藤 「あやしいからバッグの中身を出せ」と。もちろんあやしいものは何も持ってませんが、1997年だからフィルムカメラなんですよ。海外にはフィルムをたくさん持っていくんですが、ホテルに置くと盗まれるので、僕はバッグに全部入れてたんです。

 だから「そんなに疑うなら、中身を見せればいいんだろ!」と、啖呵を切ってバッグを開けたら、フィルムが8個くらいゴロンゴロンと(笑)。

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1997年、イランの旅で佐藤さんがフィルムを大量に入れていたオレンジのバッグ。手前はイランでの食事(本人提供)

──マンガみたいですね。

佐藤 そんなにフィルムが出てきたら、誰がどう見てもスパイのバッグですよ。だから僕、思わず笑っちゃったんです。そしたら警察はいよいよ腹を立てて。

──どうやって解放されたんですか?

佐藤 外に出されて、10代後半ぐらいの男の子が運転するトラックの助手席に乗せられました。彼はたぶん、徴兵で軍にいた子だったのかな。ようやく解放されると思って降りたら、そこはどこかの丘の上の軍事施設。

──警察から軍事施設に。

佐藤 男の子が偉そうな軍人に「日本人を連れてきました」みたいなことを言ったら、軍人はなぜか、僕じゃなくて彼をボコボコに殴り始めたんです。僕はもう、ただ唖然とするばかり。「忙しいのに、ワケのわからん奴を連れてくるな」ってことだったんでしょうね。

 そこで、僕が殴られた男の子を助け起こして車に戻ったんですが、山の中腹で降ろされました。しかも、また夜ですよ。

──真っ暗ですか。

佐藤 はい。1997年、約30年前ですよ。GPSどころか、今のようにスマホもありませんから、自分がどこにいるか本当にわからない。

「マリとイランの旅は、僕の中では断トツにヤバかったツートップ」

──イランの山中で迷子とは、サバンナとは別の恐怖ですね。

佐藤 だからこの時も、また半ベソ(笑)。「ハァ、ハァ……」って泣きながらどうにか山を下りて、タクシーを拾ってホテルに帰ったんです。

©文藝春秋

──それは、イランのどこだったんでしょう。

佐藤 わかりません。宙に浮いて捕まったのはテヘランですが、連れていかれた警察がどこだったのか、軍事施設はどこにあったのか、今となってはまったくわからない。覚えているのは「軍事施設は小高い丘の上だった」ことだけ。

──何もなくてよかったですね。

佐藤 《マリの恐怖》は、たとえば気温35℃の中で脱水症状になるとか、身体的な辛さだったんです。でも《イランの恐怖》は「俺、何されちゃうんだろう……」みたいな。

──もしかしたら撃たれるかも、とか?

佐藤 そうですね。拘束されているので、自分では何ともできないという怖さです。だから、マリとイランの旅は、僕の中では断トツにヤバかったツートップですね。